小説

『ランプ屋』林ミモザ(『こぶとりじいさん』)

「まずいな、油断するとすぐに出ちゃうんだ」
 彼が慌てて帽子を被り直し、二本の角を隠したと同時にドアが開いて、「こんばんは」と初めて見る青年が入って来た。
 この青年のこぶは右の頬にある。かなり大きい。
「雨宿りさせてもらおうと思って。お酒は飲めないけど、大丈夫ですか」
「ああ、ここは酒を出す店じゃないんだ、大丈夫。まあかけなよ」
 マスターの代わりに常連の男が答えた。
青年は、つい今しがたまで美咲がいた一番手前の席に腰を下ろした。カウンター正面の飾り棚に気がつくと、すぐに頬杖をついて珍しそうにつぶやいた。
「すごいな、このランプのコレクションは見事ですね!そうか、お店の名前はここからですね?」
「いや、ランプと言っても…」
「いや、そうそう。ウン、そうなんですよ」
 マスターは常連の男とそっと目くばせを交わし、言葉を濁しつつも笑顔を作ると、新顔の客を迎え入れた。

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