「一体どんな失敗したのよ……」
突然両手で頭を抱えて大きくのけぞった私に、深谷が呆れ顔で笑う。レジュメに描いていたうんこも「おいまたうんこかよ」と笑っていちいちつっこんでくれていた深谷のことだ、きっと話したら笑い飛ばしてくれるだろう。しかし……こんな失敗、才色兼備の深谷様には言えません! 同じ所うけてるわけだしね!
こうなったらまだ面接結果の届いていない二社にかけるしかない、と思った瞬間、机の上に置いていたスマホが、軽やかな口笛を吹いた。ささっと指先でロックをといて、メッセージを確認する。
「克季先輩?」
「うん、お昼休みかな?」
『今日夜電話かける やっとお昼休みですよー』スタンプなしの文字が、緑色の吹き出しに踊る。
「あー、いいよねえ彼氏持ちは。しかも公認会計士」
ため息とともにぐ、と深谷が「やってらんない」と背もたれに体重を預ける。そう、私が唯一深谷に勝てる点……それは、三個年上の彼氏がいることだった。出会ったのは、サークルの新歓時。上京したてでまだ初心な一年生だった私は、まんまと沢山のサークルの勧誘につかまっていた。知らない人と沢山メルアドを交換し、知らない名前から毎日飲み会のお誘いが入る中、唯一私が認識していた、同郷の先輩。
当時既に四年生だった最上克季は内定を得ていて、可愛そうなことに後輩に新入生捕獲要員として動員されていたのだ。「君、新入せ―……」「あ、大丈夫です、間に合っとりますけん」声をかけられすぎてくたくたになっていた私は彼の決死の声掛けを、無情にも切り捨てようとした。しかし。「まって!」思わず、腕をつかまれてびっくりして振り返ると。彼は私よりも驚いた表情で「もしかして君……××出身!?」と私の故郷をズバリと言い当てたのだ。そこから、仲良くなった。
『了解 まっとるよー』そう返信を打つと、既読が付いた後メッセージは来なかった。
「筆記はうかるんよ。本当! だって黄泉瓜新聞通ったし、文芸夏春だって……今のとこ百パーうかっとるけん、筆記はいける。でも、でも面接がああああ」
夜。お風呂から上がってだらだらと新聞のスクラップブックを作っていた所で、克季から電話がかかってきた。ほいほいととった瞬間「最近どう?」。この場合の最近は、就活に置き換え可能で、そうして彼は私がすこぶる絶不調と知っている。二月からお変わりなく。
「面接ねえ」
「一次面接で絶対に落ちる。何話していいか分からんで落ちるならまだしも、ぺらぺら喋って落ちる」
「……あと何社残ってんの」
「面接結果待ちが三社、明後日面接一社」
「四社か、厳しいね」
出版業界は縮小傾向な上もともと募集がそんなにないのだ。だから、応募者が集中する。しかも、エリート揃い。
「もしだけど、その四社とも駄目だったらどうする?」
「他業界も見てみる。そんで、秋まで息切れしなかったら、秋募集も見る」
他業界を見るにしても、事務職では東京で一人暮らしは厳しい。そして、こんな活動を、秋まで続ける気力があるかどうか、本当に自信がない。夏って、スーツだったら暑いし、どうすんの。