昔々、一粒の玉が天から落ちてきた。
それは淡い乳白色の大層うつくしい玉だった。どうやら玉の内部をたゆたゆと満たす何かが透けて、そんな色に見えているらしい。無垢と安寧が溶け込んだような玉は、太陽の光を浴びて輝きながら地上へと落下していた。
地上が近づくにつれ、小さく見えていた山は徐々に大きくなり、森や野の緑一色で塗られていた大地は、家や田畑、道から成る細かな模様を描きだした。
玉はあらかじめ着地点が決められているかのように、すうっと一直線に落ちていく。その光景には幸福の予感しかない。ところが、もう少しで地面に着くという時、大きな羽音とともに一羽のからすが玉めがけて飛んできた。
光るものを好むというからすが玉を巣に持ち帰ろうとでもしたのだろうか。
幸いにもからすの狙いは僅かに外れて、玉はからすに捕まることはなかったが、鋭いくちばしが掠め、玉は二つに分かれてしまった。柔らかな内部を晒した玉は、その瞬間だけ重力から解き放たれてくるりと自転し、すぐに球体になった。こうして元の半分の大きさを持つ二つの玉となった。
そしてひとつは瓜畑に落ち、もうひとつはいばらの野に落ちたのだった。
双子玉のうち、ほんの少し小さい妹玉とでも言うべき方が瓜畑に落ちたころ、瓜はちょうど花盛りであった。妹玉がそっと花の上に乗ると、花びらは優しく妹玉を包み込んだ。そして妹玉は瓜に守られてゆっくりと成長した。瓜の中はふかふかの綿で、何の憂いも危険もなかった。
瓜は大きく育つと自然と茎から離れ、風とともに転がり、清流に流され、下流の集落にたどり着いた。その時、川では婆様が洗濯をしていた。婆様はこれまで見たことがないほど大きな瓜が流れてくるのに驚いたが、恐る恐る瓜を引き寄せて、やっとの思いで引きあげた。ともかく爺様に見せようと、自らのたすきと洗ったばかりの爺様のふんどしを結んで長い紐を作り、瓜を自分の背に括り付けた。瓜はずしりと重い。
婆様がなんとか家に帰ると爺様も大層驚いた。二人でしげしげと眺め割ってみると、さらに驚いたことに、瓜の中で女の赤子が眠っていたのだった。
「きっと化け物に違いない。爺様、目を覚ます前に捨てて来ておくれよ」
婆様は震え声で訴えた。
「いや待て待て。古い言い伝えに、竹から生まれた女人や桃から生まれた男児の話がある。それなら瓜から子供が生まれたっておかしくはなかろう」
爺様は慎重な手つきで女の子を取り上げた。
「ほれ見てみろ。こんなに愛らしい子が化け物なものか」
婆様は恐る恐る赤子に手を伸ばした。確かに幸福そうな寝顔は鬼やあやかしの類には見えない。むしろ神仏の化身と言われた方が納得できる。
婆様は爺様から赤子を抱き取った。脆く小さく、そして温かい赤子。婆様も自然と笑顔になっていた。子供に恵まれなかった二人にとって、赤子はまさに天からの授かりものだった。
赤子は瓜子姫と名付けられ、大切に育てられることになった。