小説

『かぐや姫として生きてみる』吉田大介(『竹取物語』)

 ここまで夢想し、和志はベッドから出て、リビング兼書斎に移る。隣で妻が寝ている状況では雰囲気が出ない。デスクに向かい、仕事に使う取材用のメモ帳を通勤カバンから取り出す。まだまっさらできれいな最後のページを開くと、ペン立てから鉛筆をとった。課題は五人分、五つにしようと、箇条書きのための点を上から三つ打った時に、「待て、筆ペンで、しかも縦に書いた方がそれっぽい」と思い直し、点を消しゴムで消した後、筆ペンに持ち替える。

・蝦夷ライチョウの巣
・燃えない服
・海底火山の砂

 適当に三つ書いてみたが、まったく面白くなく、想像力に乏しいと自分で思う。あと二つも思いつかない。何のために書いているのだろうかと我に返り、メモ帳を投げ出したくなる。それでも和志はまず、竹取物語でかぐや姫はどんな品々を男たちに求めたのか、スマホで検索し調べてみることにした。あるサイトによると「仏の御石の鉢」、「蓬莱の玉の枝」、「火鼠の皮衣」、「龍の首の珠」、「燕の子安貝」の五つがそれ。詳細に調べると、それぞれ、「釈迦が使っていたとされる光を放つ鉢」、「金や真珠でできた枝」、「燃えない布」、「龍の首にかかる五色に輝く玉」、「燕が卵を生むときに出るという貝」だそうで、当然ながら古めかしい発想。
 和志はこれに倣い、「自分だったら」と考えてみる。はじめに「鉢」から皿、そしてディスクを連想、「七色の光を放つディスク」と考えるが、DVDのディスクでさえ、ちらちらと傾けてみれば虹色の反射光を放つ。そんなものは自分の家の隣の部屋にもある。だめだ、発想が貧困だ。スマホひとつとっても、夜暗い部屋で着信があれば突如神々しい光を放つ時代、まばゆく光るだけではたいしたことはない。物が光るのは珍しくないとすれば、光って不思議なものと考え、パッと思いついたのが、肉。昆虫や魚類には光るものもいるが、人間はどうか。光れば怪しい。人間の部位と「鉢」で結果ひらめいたのが「骨盤」。

一、光る骨盤

 と、和志はメモ帳の最後から二ページ目に筆ペンで書いた。自分で書いてその情けなさと滑稽さにウケる。

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