「ん?ちょっと、二人とも、あれ!」
重雄が何かに気付き立ち上がり声を上げる。
「どうした?拉致被害者でもいたか?彼らは北で頑張っておる筈じゃぞ?」
「勿論ですよ!じゃなくて…。あ、あれはひょっとして重千代お爺さん?」
「ほ、本当だ!やった。あのジジイやっとくたばったか?」
咄嗟に残りの二人も確認の為に立ち上がった。そこにいたのは紛れも無く彼等の祖先・重千代であった。
「いや待て。まだ、やっこさん三途の川を渡りきっておらん…。」
「まだ完全には死んでいないようですね…。」
「…一世紀以上生きておいてなんたる往生際の悪さじゃ!」
「おーい!重千代爺ちゃん、こっち、こっち!」
重治はその人影に向かって大きく手を振り名を呼んだ。
それを見て二人も彼の名を叫んだ。三人の声は木霊する事は無く仄暗い闇に悉く吸い込まれていくが血縁がなせる業なのか彼等の声は向こう岸の重千代に奇跡的に届いた。
「ワシを呼ぶお前さん方は誰じゃ?」
「あんたのひ孫の重治だ!忘れたのか?」
「ひ孫の重治?そんなもん、とっくに死んだわい!風になる言うて死体になって帰ってきよった。」
「重千代爺さま、お久しぶりです。孫の重雄です。」
「孫の重雄も死んだことになっとるわ!雪山登ったきり帰って来んのじゃ。遺体もまだ見つかっておらん!多分どこぞでおっチンどるわい!」
「え?嘘でしょお父さん?僕の遺体ってまだ見つかってなかったんですか?」
「スマン知ったらショックかな思うて言わんかった…。あれ以上、人様に迷惑もかけれんし捜索は打ち切ってもろうた。」
「諦めんなよ!大事な息子の遺体!探し出せよ!」
重雄は衝撃の事実にその場に雪崩落ちた。
「ん?そこにおるんわ去年死んだ倅の重造か?これはどういうこっちゃ?」
「そうです!お父さんの息子の重造です!お父さん、貴方おそらく、今死に掛けてるんです。ここがあの有名な三途の川なんですよ!」
「とすると、ここはあの世の入り口なんか?じゃぁ、お前らは本当にワシのひ孫と孫なんか?こんなとこで何をしとるんじゃ親子三代揃ってからに?」
「いや、皆アンタの長生きの所為やから!」
「アレか?川辺でのん気にバービキューか?西洋かぶれじゃのう。」
「そうです。私たちここでバカンスしてるんですよ。重千代お爺さまもご一緒にいかがですか?楽しいですよ。」
「親父、急に何言ってんの…。」
「バカだなぁ。あのまま重千代爺さまを追い返す手はないだろう。このままおびき寄せて三途の川を渡らせるんだよ。そうすりゃ我々の魂は解放される。」
「…なるほど。」
「あれだけ長生きすりゃもうええじゃろ。ワシも異存はない!」
「重千代大爺ちゃんもこっち来いよ!久しぶりに語り合おう!」
「そうですよ、皆ずっとお爺さまに会いたかったんですよ!」
三人は重千代に向ってあらん限りに声で叫び続けた。
「まさか死んだ孫達にもう一度会えるとは…。長生きはするもんじゃ。」
「いやアカン、アカン、困んねん!長生きしたら。はよ死んでくれんと!」
「父さん、その川を渡ってこっちに来れますか?」
だが重千代は言われるがまま川岸に近づくも一歩踏み入れたところで何かに気付き立ち止まった。
「でもここ渡ってしまうとワシ死ぬんちゃうんか?」
「・・・百超えてるとは思えん程、洞察力鋭いやん、あの爺。」