小説

『リバーサイド』柏原克行(『賽の河原』)

「お父さん!よくぞ渡って来てくれました。」
「でもお爺様、現世に帰ると仰っていたのに…どうして?」
「ワシとて可愛い息子や孫達をこれ以上苦しめる事は出来んわい。これで良かったんじゃろ?」
泣きながら抱き合う親子四代。血の繋がりという切っても切れない絆は死後の世界でも残っていたようだ。
「重千代大爺ちゃん、ありがとう。これで俺たちの魂は解放される。」
「これこそ家族の絆ですね。」
「父さん、我々の為に済まない。」
「ワシも長く生き過ぎた。もうここいらで休ませて貰おうかのぉ。日清戦争に赴き生き別れた父君ともこちらの世界で会えればええんじゃがな。」
「まさか、まだ中国の何処かで生きてるなんてことないよな?」
「まさか…ハハハハハ…。」
「解らんぞ。大陸は島国・日本と違って広いからのぅ。グハハハハハ。」
「もう~お爺さまったらそんな心にも無い冗談を…。ワハハハハハ。」
「俺たちの罪はついに許されたんだ…長かった…本当に長かった。」
「しかし、なかなか解放されんな…。もうちょっと時間が掛かるのかな…?」
刹那、三人の脳裏に先ほどの重千代の言い放った言葉が再生されていく…
「「「嘘でしょっ!!」」」 
三人は顔を見合わせて大声で叫んだ!
この時、発せられた三人の嘆きの叫びは遠く地獄の底の閻魔さまの耳にまで響いたという…。

さてさて
現代社会が抱える高齢化の波…その余波は現世のみならず死後の世界にまで及んでいるのです。我が身可愛さ故の地獄なれば現世もあの世はさしも遠からず…。
では皆様、機会があればここ賽の河原にてお待ち申し上げております。

おしまい

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