『会いたい人』
春野萌
(童謡『赤とんぼ』)
電車の中で豪快に眠る村松さんと遭遇した茜は、彼女の顔が知人とそっくりであることに気付く。これから大好きな人に会いに行くという彼女に興味を抱き、感動の再会シーンに期待を寄せる茜だったが、ついて行ったその先で思いもよらない光景を目にする。
『龍の祈り』
夏目会
(『黒姫物語(長野県)』)
大沼池の主である黒龍は毎夕池の傍に現れる女の事が気になっていた。彼女はとても美しく、綺麗な着物を着ているくせに、いつも傷だらけだったのだ。黒龍は彼女が姫様である一方妾の子として虐げられている事を知り、彼女を助けるため城へと向かう。
『大阪アルプス』
香久山ゆみ
(『天保山の故事(大阪)』)
天保二年に人工的に築かれた天保山、それから139年後昭和に新たに造られた山は天保山の故事に因み昭和山と名付けられた。大阪市が誇る新旧二座を、職場の先輩・後輩コンビが登頂目指して進む。日常の中の冒険、腹の探り合い。コロナに負けない!
『まだまだこれから』
ウダ・タマキ
(『質おき婆(三重県松阪市)』)
娘の勧めで老人ホームへ生活の場を移すこととなった佳子。この先の人生を悲観的に感じていたが、そこで奇跡的に高校時代の親友、裕美子と早苗に再会したことでホームでの生活は一変する。ある日、三人はホームを抜け出してお伊勢参りをすることにした。それは高校時代に達成できなかった計画だった。
『夏鶯』
草間小鳥子
(『見るなのざしき(新潟県長岡市)』)
「一番奥の座敷だけは、決して開けないでください」。花火大会の夜、婚約者のユイと迷い込んだ山奥の屋敷には、十二の不思議な座敷があった。座敷からこぼれる、幼い頃目にした四季折々の故郷の光景。やるな、と言われるとついやってしまいたくなる性格の僕は、ついに禁じられた座敷の襖に手をかける。
『居残り夏休み』
永佑輔
(『居残り佐平次(江戸)』)
平次は不登校の友達・高志に夏休みの宿題を手伝ってくれと頼む。が、断られてしまう。宿題は自宅でやる物ってなわけで、平次は宿題をやりたくないがために学校から帰らないと決断、学校に居残ることにした。それを知った高志は平次を迎えに来て、夜とは言うものの久々に校内に入るのだった。
『粗忽ノーフューチャー』
平大典
(『粗忽長屋(江戸)』)
二二世紀の未来に生きる八さんは、大変な慌て者だ。商店街で行き倒れを見かけて、自分のアパートに住むクマさんと勘違いする。その場に居合わせた警官に、「今から本人を連れてくる」と告げて、自宅のアパートに戻ったが……。
『この花々を植えたひと』
泉瑛美子
(『桃太郎(岡山県)』)
スーパーで行われることになった桃太郎の特別販売。たくさんの桃の中でひとつだけは、内側に桃太郎が宿っているという。単身赴任の夫にわだかまりを感じる主人公は、見事その桃を手に入れた。桃太郎は、鬼退治に出かけようとするが、鬼は意外な場所にいると言い始める。
『走れ、お前はメロスではない』
松ケ迫美貴
(『走れメロス』)
あれから一年、メロスは富と名声を得て、心を入れ替えた王と共に街で暮らしていた。ある日、王が「あの日を再現した、メロスとセリヌンティウスの祭を催したい」と言い出す。見せ掛けの救出劇には何の意味もないと思いながらも強く断れないメロス。自分自身に疑念を抱きながら当日の朝を迎える。