物心ついた時から父親はおらず、母は常に忙しそうだった。幼心に、母に負担をかけてはいけないと思っていた。
だから、一人でアニメを見、ヒーローの人形で遊んでいた。
そのことに虚しさを感じたのは、いつからだっただろう。
成長すると、父は、母を裏切って消えたのだと悟った。
現実で信じられるのは自分だけだと思った。
画面の向こうの存在も、自分の声に応えてくれることはなかった。
雄斗は、男の言葉に自分の中の何かが刺激されるのを感じていた。
「返事してくれるって言ったな。どういうことだよ」
呟くように言うと、取り巻き二人はきょとんとした様子で雄斗に目を向けた。
男は戸惑いながら口を開く。
「えと、このキャラはVライバーっていって……」
インターネットの生配信で、キャラが動いて話すのだが、見ている人のコメントを読んで返事をしてくれたり、会話が出来たりする。というようなことを、男は早口で語った。
「今、見れるのか」
取り巻き二人はいよいよ何か言いたげな表情をしていたが、雄斗は睨んで黙らせる。
「見せてみろよ」
男は慌ててスマホを取り出し、画面を雄斗に向けた。
「こ、これです」
画面の左半分に、アニメ調の女のキャラクターの上半身が大写しになっており、右側には細かい文字が次々と現れ、下から上に流れていく。
「右側のが、見てる人のコメントで」
確かにその内容にキャラが反応している。
不意に、黄色の枠が付いたコメントが現れた。
《メリー[¥500]:この前リンネちゃんが言ってたお菓子食べたよ!》
画面のキャラもそれに気づいたようで、
『あ、メリーさんありがとー。美味いでしょ。皆も好きなお菓子とか教えてね』
「この黄色いのは何だ」思わず、雄斗は尋ねる。
「あ、スパコメですか。お金を払うと、コメントを目立つようにできるんです。金額が大きいほど、より目立つ感じになって……」