小説

『Vとの邂逅』森本航(『今昔物語集』巻十九第十四「讃岐国多度郡五位聞法即出家語」(香川県))

 他人から金を巻き上げていた時のことを思い出す。相手の、何かを諦めたような表情。
 それに比べ、眼前に飛び交うスパコメはどうだ。コメントの主たちの笑顔が浮かんでくるようだ。
 こんなことが起こり得ている状況に、雄斗は改めて打ちのめされた。
 起こりうることを想像すらしなかった自分が、矮小な存在に見えた。

 来る日も来る日も、多くの配信を見た。魅力的なライバーもいた。
 しかし、スパコメをするか、と考えると、雄斗の手は止まった。
 どういう気持ちで、どれくらいの額でスパコメすればいいのか。
 ――応援の気持ちなので。
 顔も忘れてしまった男の声が脳内に響く。
 そして雄斗は悟る。
 したいと思うような人が現れたとき、自然に答えは出るのではないか。
 今はその時ではない。
 その瞬間に出会いたい、と思った。
 その時に投じる金は、ちゃんとしたものにしよう。
 雄斗は雑談配信をバックに、仕事を探し始めた。

 吉祥ハスミを初めて見た時、登録者は五千人ちょっとだった。しかし、その数に対して配信の同時接続者数は多かった。
 淡い空色の衣装にボブカットの銀髪。両手首と頭に蓮の花の飾りが付いている。可愛らしい見た目の割に、話し方はゆったりとしていた。
 見始めてすぐ、挨拶のコメントをすると、
『ユートさん、初見さんね。何もないけどゆっくりしてって』
 と微笑んだ。普通のコメントへの返事も丁寧なのだ。むしろスパコメをもらうことに消極的で、
『いや、いっぱいもらうとプレッシャーっていうか。折角なら大きな節目にね』と言う。
 吉祥ハスミの飾らなさと、視聴者との対等さに、雄斗は惹かれた。ライバーとそのファン、という図式でなく、同じ時間を共有する、という空気。ハスミが楽しければ視聴者も楽しく、視聴者が楽しければハスミも楽しい、そういう関係。視聴者もハスミに似て温和な人が多い。配信を見ていると、心が温かくなった。

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