小説

『Vとの邂逅』森本航(『今昔物語集』巻十九第十四「讃岐国多度郡五位聞法即出家語」(香川県))

 吉祥ハスミの趣味の一つはハンドメイドだという。アクセサリを作っているらしい。
『この前、初めてハンドメイドのイベントで出店したの。こうやって一歩踏み出せたのも、皆が応援してくれるからっていうか――』
 何度目かの配信で、彼女はそんなことを言った。
 彼女の力になっているのだと感じた。

 その時は唐突に訪れた。
 吉祥ハスミの登録者は着実に増えていた。
 何気ない雑談配信。その最中に、登録者が一万人を突破したのだ。視聴者は沸き立ち、コメント欄にスパコメが溢れた。皆、彼女への想いを形にしたくて堪らなかったのだ。
『待って、まだ一万よ』
 ハスミは慌てたように言う。
『いや、違うな。皆のおかげで、頑張れてるっていうか』
 画面のキャラは笑顔のままだ。しかし、声が次第に震え始める。
『登録者数とかじゃないってのは、思ってるんだけど、なんか、皆ずっと応援してくれてるんだなって、思ったら、ごめん、ちょっと、ホントにありがとう』
 言葉に詰まるハスミに、雄斗は胸を打たれる思いがした。《感謝したいのはこっちだ》と思っていたら、その内容のスパコメが現れ、ハッとする。別の人が書いたものだった。
 手が動く。
《登録者数がどうであれ、ずっと見続けるよ》
 そう打ち込み、金額を設定する。
 考える必要はなかった。
 これまでの感謝と、これからの応援の気持ち。
 スパコメが画面に表示される。
『ユートさん、ありがとう。そう言ってくれると嬉しいな』
 言いようのない充足感があった。

『何か皆にお礼したいね』
 配信の後半、ぽつりとハスミは言った。
 我々が普段のお礼をしたんだ、と思う。同じようなコメントがいくつも現れる。
『そう言ってくれるのは嬉しいんだけど』
 そこに、スパコメが投じられた。
《Lin[¥3000]:ハスミンの作ったハンドメイドのグッズとか欲しいな!(もちろんお金払います)》
 コメントを読み上げたハスミはお礼を言い、『うーん』と声を洩らす。
『数作れるかな~。でも人が増えたらもっとできなくなるか。お礼って言って金取るのもねー』

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