小説

『Vとの邂逅』森本航(『今昔物語集』巻十九第十四「讃岐国多度郡五位聞法即出家語」(香川県))

 どこまでも誠実な様子に、雄斗は苦笑してしまう。《金取って!》とコメント欄。
『そうね、やってみようかな。どれだけできるか分からないけど。ちょっと凝ったアクセサリと、手ごろなキーホルダー、とかにすれば選べるかな? あ、値段は原価とちょっとくらいにするから!』
 遠慮せず金額をつけてくれ、と思うと、《先にマージン渡しときますね》と高額のスパコメ。同様のスパコメが続く。雄斗も便乗してスパコメした。
『待ってまって。まだ決まってないって。Ntさんとかユートさんさっきも結構なスパコメくれたよね』
 ハスミはスパコメの名前を読み上げながら、慌てたように、しかし楽しそうに言う。
『いや、やりますか。どんなの作るか皆と考える配信もやろう!』
 コメント欄が沸く。

    *

 マコトは、バイトからの家路を急いでいた。大好きなライバーの周年記念配信が始まるのだ。大学生になってバイトを始め、お金の重みを実感したことで、スパコメの重みも増したように感じる。
 角を曲がったところで、その先にいた人とぶつかった。
「すみません」
 咄嗟に謝り、顔を上げてぎょっとする。ガタイのいい金髪の男。首からは銀のネックレス。外見で判断してはいけないが、「コワイ人」に見えた。
 高校の頃にも同じようなことがあったな、と思いながら、もう一度頭を下げようとしたが、
「いや、そんな謝んなくていいよ。俺もぼうっとしてたっていうか」
 男は笑って言う。そして、目を少し下に向けて、
「あ、それ」
 マコトが肩から提げたバッグには、ライバーのアクリルキーホルダー。
「笹羅リンネじゃん。記念配信で急いでたわけか」
「あ、え」
「気ぃつけろよ」
 すれ違いざまマコトの肩に手を置いて、男は去っていく。
 その後ろ姿を眺めながら、マコトは、どこかで会ったことがある人のような気がしていた。知り合いにあんな人はいないのに。
 彼のネックレスが、残像のように脳裏にちらつく。
 胸元で銀色に輝いていたペンダントは、蓮の花の形をしていた。

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