小説

『玉がない!』K・G(『狐の玉』(福井県南部))

「とーちゃん。やっぱり里のもんの仕業じゃ。イタチの奴が寺の小僧が持っとるのを見たって」
「寺の小僧? はて。そんなもん盗んで何に使うのだ」
「きっと狐に化けて悪戯するんじゃ。それで狐の所為にするに違いない」
 人間が化けて狐に罪を擦り付けるなど聞いたこともなかった。親狐はようやっと起き上がり、背伸びをする。子狐が毛を引っ張る。
「取り返そう、とーちゃん」
「馬鹿言うな。鉄砲で撃たれるのはごめんじゃ」
「寺の坊主は鉄砲持っとらんじゃろ。殺生はせんと授業で習った」
「なんだと」
 親狐は憮然とした。最近の教育現場は甘ったるいことを言う。世の中の厳しさを教えるのは子供の心が汚れるなどという奴らがいるのだ。鬼退治の童話でさえ最後は鬼と仲良しこよしになるという甘ったるい内容に書き換えて聞かせる。馬鹿を言ってはいけない。子供だからこそ世の中の怖さや厳しさを教えておくべきだった。親狐は子狐の前足を掴む。
「いいか。寺の坊主どもは隠れて肉を食うんじゃ。儂なんぞ子供のころ、包丁を持って追いかけ回されたことがある。お前のおっかさんも人間に捕まってどっか遠くへ連れて行かれたんじゃ。今頃は金持ちの家に飾られとるに違いない」
 子狐はしょぼくれた顔をした。毎日毛を拾ってはせっせと玉にしていたのを親狐も知っている。だから気持ちは分かったが、取り返しに行くなど危険極まりなかった。
「だいいち、玉なしで化けることも出来んのにどうやって取り返す気じゃ」
「だからとーちゃんに相談しとるんじゃ」
「やめやめ。無理なもんは無理じゃ」
 親狐は子狐を放してまた横になる。子狐はぐすぐすと愚図り出した。別にいい。放っておけば諦めもつくだろう。子供の関心なんぞそんなものだ。
「ごめんください」
 その時、誰かがやってきた。玄関まで行くとそこには狸がいた。隣に住む夫婦の夫だった。大きな腹をした狸は笑顔で小包を渡してくる。
「町内会の帰りでして。会長さんがこれをお渡しするようにと」
「はぁ。これはどうも」
 親狐は町内会を仮病でサボっていた。バツが悪くて頭を掻いていると、狸は家の中で愚図っている子狐を見つけた。
「おや。何を泣いておられるのです」
実はと親狐はバツの悪さを誤魔化すために事情を話すと、なんだそんな事かと狸は笑った。
「なら私の化けの皮をお貸ししますよ」

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