囁くように言うと、戸村さんはパソコンを片付け会議室から出て行った。
残された人たちは互いに顔を見合わせることしかできなかったけど、源さんが皆の目を覚まさせるように手を叩いた。
「よし。皆、明日から頑張ろう。各自できるところから準備を進めてくれ」
あちこちで椅子を引く音がして、メンバーたちは三々五々出て行った。誰もが、煮え切らないといった顔をしていた。
わたしは改めてホワイトボードを振り返った。〈純粋に面白いと思った方〉という基準がなければ結果はどうだったろうと、考えずにはいられなかった。
撮影は、案の定ぎくしゃくした。
十村さんはおよそチームワークとは無縁の人だった。今まではほとんど一人で撮影していたから、スタッフを動かすことに慣れていなかった。
「カメラ、そこに居たら邪魔です」
「余計な照明焚かないでください」
「そんな音録ってどうするんですか」
「服の色が違います。変えてください」
言葉を一切選ばないので、言われた方は当然憤った。日毎に皆の怒りは募っていき、源さんが皆を宥めていなかったら、流血ありの暴動がいつ起きてもおかしくなかった。
中でも一番不満を溜めていたのは、主演の清田さんだった。彼女は学内の演劇サークル所属で、これまで源さんの映画に出ていた。コンクールに出品するこの作品についても、源さんが監督をするものとばかり思って話を引き受けたのだった。
「どうしてあんな奴のために四十回も同じ台詞言わなきゃならないのよ!」
酒の席で管を巻く清田さんを宥めるのは、それはそれは骨だった。源さんが不在の時は尚更だった。彼女は役を降りるとまで言っていたのを、源さんに説得され、どうにか撮影に臨んでいた。撮影が進む過程でも、十村さんと衝突することは一度や二度ではなかった。
「あたしはアキ君の映画に出たかったのにぃぃぃ~」