どちらに味方しても、どちらかの反感を買ってしまう。正解のない二択を迫られた私は、二人と対等に張り合える裕太に視線で助けを求めるも、裕太は呑気にあくびなんかしている。
「てかさ、俺ら放課後、部活あんだけど。水汲んでる暇なんて、なくない?」
私が何も言い出せずにいるうちに、野球部の香西くんの一言で、風向きが大きく変わる。
「そんなん、うちらもやし」
結菜たち女子の主勢力は、活動熱心なダンス部だ。いがみ合っていた敵同士は、新たな矛先を見つけて、瞬時に共闘体制へと変化する。
「そうやん! 部活やってないやつだけでよくない? 委員長ー」
「あのなぁ、クラスのほとんどのやつ部活やっとんやけん、当番制にならんやろ」
吉田君の問いかけに、裕太が呆れたように答える。
「晴香の意見は? 女子の委員長にも聞かんと」
結菜が私の方を見て、ニッコリと笑う。結菜の求めている答えはすぐに分かった。
クラスで部活に入っていないのは、おとなしめのグループの男子だけだ。急に槍玉に挙げられた彼らが、驚きと諦めの入り交じった顔で、こちらを見ている。
「うーん……ほんなら私、給水係やってもええよ。どうせ雨が降らんかったら、水泳部の活動ないし」
予想外の私の答えに、クラスの空気が一瞬止まる。でしゃばりすぎたかもしれん。背中を冷や汗が流れる。
「えっ、ほんまにー! 山中さん、神!」
その空気を切り裂くように、吉田君の声が響いたかと思うと、晴香優しすぎる、と結菜たちも笑顔で続いてくれた。爆発寸前だった風船の空気が抜けてくみたいに、クラスの緊張感がとけていく。池田先生も安堵したように微笑んで、くりんくりんになった前髪から手を離した。良かった。これは、正解やったんや。
「いや、晴香一人は無理やろ。いつまで断水続くか分からんのに」
その大円団の雰囲気を壊したのは、裕太だ。なぜだが一人険しい顔を続けている。
「やけど裕太、こういうのって、みんなでやるより案外一人のほうが効率良かったりするけんさぁ」
「ほんなら、吉田が一人でやれよ」
いつもはニコイチみたいな二人の間に流れる険悪なムードに、クラスにまた暗雲が立ち込める。やっぱり私は、数学よりも世界史よりも、ホームルームの時間が一番嫌いだ。きっと、年をとって、成人して、社会人になっても、私はこの時間を、胃を痛くしながら思い出すんだと思う。
「私、一人でやれるけんかまんよ。ほら、部活ない間の、筋トレ代わりみたいなもんやし。池田先生もいいですよね?」
とにかくこの時間を終わらせたくて、先生へとバトンを渡す。私の仕事はやきりったし、なにより渡されたときより、いくらか状況はマシになったはずだ。
「分かりました。じゃぁ四組は、山中さんに給水担当をお願いするということで」
クラスから拍手がおきる。裕太だけが、怒ったように窓の外の乾いた空を見上げていた。