小説

『なんで?』真銅ひろし(『桃太郎』(岡山県))

 とっさの和希先生の言葉に他の先生たちもそれに納得した空気を出す。
「いや、核の部分はそこじゃありません。男ばかりが戦いに行って強さを誇示するのはおかしいと思うんです。題材を変えるだけなら“かぐや太郎”でも良いと言う事にはなりませんか?それでは園児は納得しないと思いますけど。」
 硬い。明らかに考えすぎなのではと思ってしまった。園児はそこまで深くは考えていないんじゃないだろうか。
「少し突拍子もない提案ですが、男女平等、多様性を求められる時代でもあります。ここで一度きちんと我が幼稚園でも考えてもいいんじゃないでしょうか?」
 なんだか演説のような言い回し。
 めんどくさそうな匂いのする案件だけれど、主任である美智子先生の提案を無下にするわけにはいかない。
「・・・そうですね。考えてもいいかもしれませんね。他の先生はどうでしょうか?」
「・・・。」
 園長先生の問いに誰も何も言わない。
「琴美先生はどう思われますか?」
「え!私?」
 いきなり名指しされてしまった。きっと一番言いやすいと思われている。この中だと中堅だし、あまり否定しないし、押しに弱いし、流されやすいし・・・とにかく何か言わなければ。
「あ、あの、他の動物たちはどうなるんでしょう?」
「は?」
「桃太郎バージョンは犬、猿、キジですけど、桃姫バージョンはどうなのかなって思って。」
「そうですね。言われてみれば。」
 美智子先生が妙に納得してしまっている。
 我ながら余計な事を言ってしまった。「いいんじゃないですか?」とかなんとか適当に言っとけばよかったのについ口が滑ってしまった。
「じゃあ、今度女の子の園児にアンケートを取ってみましょうか?そしたら何か現代風の面白いアイデアが出るかもしれませんね。」
 何故だか美智子先生は張り切ってしまった。園長も他の先生も誰もそれに反発することは出来ず、今度の会議までに可能な人は物語のアイデアとアンケートを取ることになってしまった。

1 2 3 4 5