そのやり取りを、戸隠と黒姫が聞いていました。
「なあ戸隠どん、いくらなんでも飯縄どんはいい気になりすぎじゃないか。おらたちだって、善光寺平を守ってる」
「そうだがなあ。飯縄どんはすごく高いし、おらたちの言うことは聞いてくれんだろう」
「おらにいい考えがあるだ」
黒姫は、飯縄に聞こえないよう小さな声で、戸隠と相談を続けました。
あくる日、戸隠が飯縄に話しかけます。
「おーい、飯縄どん。人間たちが来て楽しそうだったなあ」
「なーんも。こんでええ言うてもやってきて、はよ帰れ言うても帰らん」
「善光寺平を隅から隅まで見てる飯縄どんは、したわれ方が違うなあ」
「ああ。広い世の中を知っとるのは、おらだけだからな」
黒姫が続けます。
「そうだなあ。でも、世の中のことなら、あいつも良く知っとるらしいぞ」
戸隠もちょうしを合わせます。
「おお、あいつなあ。あいつには飯縄どんもかなわんかも知れんなあ」
「そんなやつは、おらんだろ」
「いや、国じゅうを歩きまわっていて、なんでも知っとるらしいぞ」
「おらほど世の中を知っとるやつはおらん」
「じゃあ、そいつを呼んで確かめてみよう」
「そんなやつがいるなら、呼んでこい」
黒姫と戸隠は、声を合わせて呼びます。
「だーいだーらぼっちー、でーらぼっちー」
何も起こりません。
「飯縄どんも一緒に呼ぶだ」
戸隠に言われ、飯縄も声を合わせます。
「だーいだーらぼっちー、でーらぼっちー」
「だーいだーらぼっちー、でーらぼっちー」
なんども呼びかけると、でっかいひげ面が雲の間からにゅっと現れました。国のあちこちを歩き回っている大男、ダイダラボッチです。背丈は飯縄よりも高く、太陽が隠れ、善光寺平に夜が来たようでした。