「まだやってんの? 大変だねえ。でも、ちょっと問題のある子たちの施設でしょ。別にこの町になくてもいいんじゃない」
頭を下げるだけでなく、こんな偏見とも戦わなくてはならず、結果の出ない日々に徒労感だけが残った。
しかし、子供たちのことを思うと諦めるわけにもいかず、秋吉はバスで港に向かい、船関係の企業を回ってみることにした。
秋吉を乗せたバスが乗降客のために田んぼの脇のバス停で停車したとき、窓際の席から外をぼんやりと眺めていると、道路の反対側の道端で、制服姿の少年が祠のような小屋に頭を突っ込んでいるのが目に留まった。
何となく見覚えのある後ろ姿だなと思った。
「あ、晴生」
一瞬横顔が見えたとき、その少年が学園を卒業し、今年から公立の中学校に通い始めた晴生であることに気づいて、秋吉は思わず窓を開けた。
「あいつ、何をやっているんだ?」
見ると、子供の背丈ほどの廃屋のような小屋の中には一体の石地蔵が納められていた。
「こんなところに、お地蔵さん……」
その時、自転車に乗った数人の中学生が、通り過ぎざまにペットボトルのようなゴミを小屋に向かって投げ捨てた。
「拾っとけよー」
笑い声とともに、晴生と同じ制服を着たチャリンコ集団は走り去っていった。
晴生は無言で投げ捨てられたごみを拾い上げ、袋に詰めた。袋はゴミや雑草で膨らんでいた。
目の前を対向車が通り過ぎるたびに視界を遮られたが、背中を丸めてゴミを拾う晴生の姿は変わらずそこにあった。何かコマ送りの古い映画でも見ているように秋吉の心に強く残った。
次に晴生を見たのは、やはり同じ路線のバスに乗っているときだった。その日は雨が降っていた。
バスの窓ガラスを流れる水滴でゆがむように見えていたのは、雨に濡れながら地蔵小屋の前に立つ晴生と、透明なビニール傘を差した地蔵の姿だった。
朽ち果てそうな小屋だから雨漏りでもしていたのだろう。晴生は傘を地蔵にかけ、自分はびしょ濡れになっていた。家に帰ってから里親にひどく怒られたに違いない。