小説

『鶴の置き土産』彩原こだま(『鶴の恩返し』)

 お鶴。私の――私たちの大切な娘。一緒に買い出しに行ったり、若いころの着物を縫い直して着せてあげたり、おじいさんと三人ででかけたり。短い間だったけど、楽しい時間でした。彼女がいなくなったとき、私も悲しかったです。けれど、 私は泣くべきじゃないと思いました。だから涙を押し殺した。瞼を閉じればあのときのことが蘇ります。私が引き戸を開けた瞬間。大空を飛ぶ姿。帰ってきて欲しい。またもう一度、一緒に暮らしたい。
 感情が押し寄せてきて、私はしばらく泣き続けていました。おじいさんは何も言わず、私の体をさすってくれてました。

「なあ」
 私が落ち着きを取り戻したとき、おじいさんは口を開きました。
「今度、お前がよくなってから山歩きにでも行こうと思ってるんだ。足の健康のためにもな」
「ええ、おひとりでは危ないですからね。お付き合いしますよ」

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