小説

『毒入りリンゴを手に持って』小山ラム子(『白雪姫』)

 無事合格した高校では、ミスコンは中学のとき同様文化祭に行われていた。九月の開催である。一年生のときも奮闘したのだが、上級生には勝てずに結果は最下位。しかし二年生になってからは生徒会で活躍したのもあり、二位という躍進を遂げた。
 票をもらうには日頃の行いが大切だ。一夏の性格は中学の頃から変わっていない。他人の悪いところにすぐ気が付くし、それを見過ごすことはできない。だけど行動は変わった。
 一夏は見守ることを選んだ。それに周りは気が付くものである。
「今年こそ一位だね」
 響子の言葉に一夏はうなずく。最終学年で叶うなんてドラマティックではないか。
 しかしこれは予想外だった。新入生の城崎雪乃。芸能人かと思うほどの容姿をもった彼女は、振る舞いも優美でしとやかだ。それでも大人しそうな性格なので、ミスコンには出場しないのではと一夏は考えていたのだが甘かった。周りの後押しがすごかったのだ。
 一夏以外の出場予定者は辞退した。つまり一夏と城崎さんの一騎打ちである。
「お前雪乃ちゃんいじめるなよー」
 候補者が確定してから、クラス一お調子者の春斗がからかうように言った。
 誰がいじめるか、と言うのを飲み込んで一呼吸をおく。そう見えてしまうかもしれないとは一夏も思っていた。派手な一夏とおしとやかな城崎さん。去年のようにパフォーマンスとして「負けないから!」とライバル同士廊下で言い合うのも今年はできなさそうだ。
「『よろしくね』って言うだけでも威圧感あるかな」
 一夏の真剣な問いにきょとん、としてから「うーん。まあ言い方じゃね?」と春斗は返した。そこにはもうおどけた響きはない。
「一夏のこと知ってる人ならいじめてるなんて思わないよ。まあでも一年生は知らないもんね」
「そうすると今年は候補者との絡みあんまりないほうがいいかも」
 周りにいたクラスメートも話に加わる。去年もクラスのみんなは一夏のために一緒になってミスコンを盛り上げてくれた。そのことが何より一夏はうれしかった。

「あ、ここにもポスター貼ってある」
「なんか去年よりも多くない?」
 地学室に向かう途中の廊下で、女子生徒の会話が一夏の耳に入ってきた。
ミスコンの告知ポスターは今までになく気合が入っていた。やはり一夏と城崎さんはその見た目の対比が目をひくようだ。

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