小説

『毒入りリンゴを手に持って』小山ラム子(『白雪姫』)

 雪のように白い肌。何もかもちいさなパーツの中でひとつだけ存在感を放つおおきな瞳。細いながらも均整のとれた身体。
 城崎雪乃は完璧な美少女だった。

 青山一(いち)夏(か)は偽善者だ。
 クラスの一部の女子に自分はそう言われているらしい。一夏がそれを知ったのは中学三年生の夏の頃だった。
 一夏は他人を注意することが多い。しかし自分としては正しいことをしているつもりであった。
「一夏はさ、思ったことそのまま言いすぎなんだよ」
 親友の響子に言われても納得がいかなかったのだが、その年の文化祭で一夏は考えを改めることになる。
 初めて行われたミスコンで、学校一かわいいと言われていた女子はエントリーした五人の内三位に終わった。
 司会者の「いやーかわいいですよね。モテエピソードとか教えてくださいよ」という質問にその子はこう言ってしまったのだ。
「今までかっこいいって思った子には必ず告白させました」
 素直すぎるこの返答が敗因だった。
「響子が言ってたのはこういうことだったんだね」
「え? なにが?」
「思ったことそのまま言いすぎるって」
「え、いや、うーん。まあでもそういうことでもあるか」
 そして一夏は決意したのだ。
「わたし高校行ったら文化祭でミスコンでるよ」
「え⁉」
「あれってつまりは人気投票だよね」
 一位をとった女子は、美人と言うよりは笑顔が素敵な子であった。礼儀正しく朗らかに受け答えをする様子は一夏からみても好ましかった。何より一夏にとって決め手となったのは「あの子委員会一緒になったことあるけどすごく感じよかったよ」という響子の言葉だった。
「優勝目標にすればわたしも気を付けるようになると思う」
 興味がなくすぐに断ったのだが、そのミスコンは一夏にも声がかかっていた。自分の外見が平均よりも優れているであろうことは知っている。しかしかわいらしい、という意味ではないのも分かっていた。一夏の顔立ちは派手であるうえ地声は低く、意識しないと言い方はきつくなる。
「ま、一夏がそう決めたんなら応援するよ。というかまずは高校合格しなきゃね」
「大丈夫でしょ。よっぽどのことなきゃ」
「いやそういうとこだから。わたしは割とぎりぎりだからね」
 一夏はあわてて口を手でおおう。くぐもった声で「ごめん」と言う一夏に響子は笑っていた。

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