小説

『毒入りリンゴを手に持って』小山ラム子(『白雪姫』)

 女王の恰好をした一夏と白雪姫の恰好をした城崎さんのイラストは、二人の特徴が若干誇張されながらもよく描けている。『鏡よ鏡。この学校でミスコンにふさわしいのはどちら?』がキャッチコピーである。
 このイラストを提案されたときは迷ったが許可した。おそろしい魔女でもある女王。むしろそんなイメージをポスターでだしてしまったほうがギャップを狙える。
 ミスコンは結局エンターテイメントである。見た目がかわいいだけではだめなのだ。一夏はそこまで悲観的にはなっていなかった。
「悪い一夏! 多分今回は俺雪乃ちゃんにいれるわ!」
 しかしその目論見は甘かった。ポスターが裏目にでたのである。
 なんともかわいらしい白雪姫な城崎さんは、守ってあげたくなるようなか弱さである。一方、女王様な一夏は一人でもたくましく生きていけそうな貫録である。
「雪乃ちゃんさ、周りの人におされて出てるからさ。これでもし負けたら責任感じちゃいそうじゃん」
「一夏は強いからさ。別に負けても平気だろ?」
 去年一夏を応援してくれていた人達が次々と城崎さんに乗り換えていく。
負けて平気じゃないしそんなに強くもない。でも一夏が積み上げてきたイメージは言われた通りのものであった。
「やっぱり正統派には勝てないのか……」
 そんなイメージとは正反対の姿を響子の前ではさらけだせた。
「かわいいもんねー城崎さん」
「ちょっとーはげましてよ」
 そう言いつつも、無理にやさしい言葉をかけない響子のことが一夏は好きだった。
「あの!」
 突然あがった声に驚きながら二人同時に振り返る。そこにいたのは三人組の女子だった。
「わたし達一夏先輩のこと応援してるんです!」
「へ?」
 上履きの色を見るとどうやら一年生のようである。
「応援してる子たくさんいるんで!」
「負けないでくださいね!」
 ぽかんとしている間にその子達は去っていった。ここは三学年棟の廊下である。今まで通りすがりに応援されたことはあったが、わざわざ足を運んで言われるとは。
「え、わ、うれしい!」
 はしゃぐ一夏とは反対に響子は黙って女子達の後姿を見つめていた。そこに込められた危惧に一夏が気がついたのは、しばらくしてからのことだった。

「出るの辞めたいって言ったら驚く?」
「ミスコンに?」
「うん」
 放課後。一夏は響子の家に来ていた。響子の部屋は予定になかった訪問だったのにもかかわらずきれいに掃除されていた。
「なんで?」

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