おばあさんはしわしわの顔でにっこりと笑って、僕を居間に座らせた。
囲炉裏の粥を茶碗にすくって僕に渡すと、彼女はよっこらしょ、と言って立ちあがり、外へ出て行った。どうして出て行ったのか、普段気にも留めなかった一挙一動が、不安をかきたてる。
いつもと変わらず美味しそうに湯気を立てる雑穀の粥を、僕は気を張りながら少し食べた。いつもと同じ味がして、なんだか涙が出た。
しばらくすると、おじいさんが山から帰ってきたようで、外からおばあさんとの話し声が漏れ聞こえてきた。
聞き耳を立てていると、帰ってきてからあの子の様子がおかしい、と僕について話しているようだった。
僕は冷や汗をかきながら、その場から動けなくなってしまった。
「お前は確かに桃から生まれた子どもじゃよ」
おじいさんは、僕の目をまっすぐ見ながらそう言った。常に穏やかで優しげな表情をまとっていたおじいさんが、一見すると怒っているのではないかと感じさせるほど真面目な表情をしていた。
その隣に座っているおばあさんも、神妙な面持ちで僕を見つめている。
この人たちのこんな表情は初めて見たな、と、僕は頭のどこかで、何故か冷静に考えていた。
僕が彼らの孫ではないと気づいてしまったことを、やはり彼らは悟っていた。僕が本当のことを知ってしまった以上は、すべてを打ち明けようと決心したらしい。
「お前を特別だと言って育ててきたのは、お前が桃の力を持っている子だからじゃ」
おじいさんの言っていることがよくわからず首をかしげていると、おばあさんは
「昔から桃は魔除けの果実と言われているからねぇ」
と補足した。
僕は魔を除ける桃の力など持っていない。持っていれば村人たちからこんな扱いを受けていないだろう。
おばあさんは、
「ずっと前から、桃の力を持ったお前に、鬼ヶ島の鬼退治に行ってもらおうとおじいさんと話していたんですよ。今がその時かもしれないねぇ」
と言った。
鬼ヶ島の鬼というのは、人を襲って物を奪ったり、人を喰ったりする悪い化け物たちだという。
ずっと感じてきた大きすぎる正体不明の期待はこれだったのか。何度も言うが僕に桃の力などはないから、鬼退治なんてものは死にに行くようなものだ。
しかし、彼らと血のつながりがないとわかった今、彼らと僕の絆はこれしかないのだろう。僕は鬼退治とやらに行くしかない。
小さな刀と、おばあさんの作った黍団子、数日分の食糧、防寒具を持って、僕は家を出発した。
道中で犬と猿と雉に出会ったので、黍団子で餌付けをして鬼ヶ島に同行してもらおうと試みたが、見向きもされなかった。僕は一人で黍団子を頬張った。