小説

『かぐや姫は未確認生物が好き』渡辺鷹志(『竹取物語』)

「この5人の中から決めなさい」
「わかったわよ」
 父親の言葉に、美月は観念したように返事をした。

 美月は世界的にも有名な財閥グループの一人娘。
 もうすぐ30歳になるがいまだに独身だ。顔もスタイルもモデルのような美人で性格も明るいため、人気もありモテる。しかし、本人は恋愛には全く関心がない。
 父親は娘に早く結婚してもらいたいとずっと思っていて、事あるごとに美月にもそのことを言ってきたし、見合いの話も用意してきた。しかし、本人に全くその気がなく、現在に至っている。
 小さな頃から珍しいものや未知の世界への冒険といったものに目がなかった美月は、現在は大学で考古学の分野の助手を務めている。といっても、研究室に閉じこもって研究に没頭していることはほとんどない。考古学に関することはもちろん、それ以外の謎の秘宝や幻の生物といった自分が興味があるものについての情報があると、すぐに現場に駆け付けるのが常で、いつも世界中を飛び回っている。

 ある日、父親は海外から久しぶりに帰ってきた美月に5人の青年の写真とプロフィールを見せて、「もうこれ以上は待てない。この5人の中から結婚相手を決めなさい」と強く迫った。その5人はいずれも名門の家の息子だった。
 これまで以上の父親の強い態度に美月もようやくあきらめたのか、5人に会うことは渋々了解した。
 しかし、美月はひとつの条件を出した。それは、5人のうち誰を選ぶかの方法は自分が決めるというものだった。父親も「結婚する気があるなら」とそのことには反対しなかった。

 数日後、5人の男性が美月の家の屋敷に集められた。
 いずれも財閥や資産家、もしくは貴族といった名門の家の息子で、全員が高価な服を着て気品のあるたたずまいをしていた。ただ1人を除いて。

「すごい立派な屋敷だなあ。それに、みんな上品な格好をしている……」
 三神は広い屋敷の中を見ながらきょろきょろしていた。
 ぼさぼさの髪、よれよれの服、1人だけその場に似つかわしくない格好をしている。
 三神の家も由緒ある資産家だった。といっても、家のほうは優秀な兄が継ぐことになっているので、三神はすでに家を出ていた。今は大学で自分の好きな生物学の分野、特に珍しい生き物について研究をしている。その分野ではそれなりに名の通った人物である。
 今回の話は、父親から「付き合い上どうしても断れない。とりあえず、行くだけ行ってくれ」と頼まれたので、仕方なく来たのだった。

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