小説

『かぐや姫は未確認生物が好き』渡辺鷹志(『竹取物語』)

 しばらくして後ろを振り返ると、奇妙な生き物は急ぐこともなくのろのろと歩いていた。よく見ると足からは血が出ていた。けがをして走ることができないらしかった。
 そのとき、地響きのような大きな音がした。雪崩が発生したのだ。
「まずい、来るぞ!」
 三神はあわてて生き物のところに引き返すと、生き物を背負って全力でその場所から逃げた。
 三神と奇妙な生き物は、間一髪雪崩から逃げることができた。
「危なかった……」
 しかし、生き物を背負って全力で走り続けて疲れ切っていた三神は、目の前に大きな穴があることに気づかず、そこから下に落ちてしまった。

 三神は目を覚ました。どうやら穴から落ちて気を失ってしまったらしい。
 そこは洞窟のようだった。広い空間が広がっている。三神が起き上がると、自分の周りに布団のように草が敷かれていたのに気づいた。
「布団? 誰かが落ちた自分を助けてくれたのか。でも、こんな山奥でいったい誰が……」
 三神はあたりをキョロキョロした。
 すると、三神が雪崩から救ってやったあの奇妙な生き物が三神のそばにやって来て、微笑みながらぺこりと頭を下げた。……ように三神には見えた。
 そして、そのまま奥のほうへ走っていった。
「あっ、ちょっと!」
 三神は話しかけようとして生き物が走っていった方向を見た。
 そこには、今三神のところに来た生き物の2倍以上の大きさ……3メートル、いやそれ以上はあると思われる、毛むくじゃらの巨大な生き物が人間のように二足歩行で歩いていた。しかも、その数は1匹や2匹ではなかった。数十匹はいたようだった。
 三神は慌てて動画を撮影した。
 それから彼らの後ろ姿を必死で追いかけたが、二度とその姿を見ることはなかった。
「イエティは本当にいたんだ……」

 5人の男性が美月に会ってから3か月後、全員が再び美月の家の屋敷に集まった。
「それでは、見つけてくれたものを見せてください」
 美月は子どものようにワクワクして目を輝かせている。
 それぞれの男性は順番に自分が撮ってきた動画を美月に見せた。
 しかし、4番目までの男性の動画を見た美月の顔は、落胆と失望の表情に変わっていった。
 そこには、どう見ても作り物にしか見えないツチノコやネッシーの姿が映っていた。ビッグフットやカッパに至っては、どこかの特撮の現場で衣装を借りてきてそれを撮影したものにしか見えなかった。
「何なのこれ」
 美月は動画を見せた男性を見てため息をついた。4人の男性は「いや、未確認生物を見つけてくるなんて無理ですよ」と言わんばかりのあきれた表情をしている。

 最後の5番目は三神だった。
 三神はヒマラヤで撮影した動画を美月に見せた。
 動画を見た瞬間、美月の表情が変わった。

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