小説

『かぐや姫は未確認生物が好き』渡辺鷹志(『竹取物語』)

 ビッグフットは巨大な足跡を残したことで知られる大形の獣人。
 そして、イエティはヒマラヤ山脈の奥地に住むとされる獣人、いわゆる雪男だ。

 いずれも未確認生物と呼ばれる未知なる生物だ。伝説や目撃情報はあるが、実在するのかどうかもわかっていない。それを3か月で見つけるなどはっきりいって至難の業だ。
「結婚したくないためにわざとこんな条件を出したのでは?」
美月の父親は一瞬そう思った。しかし、未確認生物の話をしている美月の顔はいたって真剣で、何より楽しそうだった。
「あいつはふざけているわけでもわざとでもなく、本気のつもりなんだろう。どうなることやら」
父親はため息をついた。

「イエティか……」
 三神が腕を組んで考え込んでいる。
 珍獣と呼ばれる珍しい生き物の研究をしている三神にとって、未確認生物は専門外ではあったが、イエティを探し出すという美月の条件は興味深いものだった。
「ヒマラヤに行ってみるか」
 美月との結婚には興味がなかったが、イエティ探しには興味がわいてきた三神は、ヒマラヤ山脈に出発した。

 ヒマラヤ山脈の気候は想像以上に厳しかった。
 研究のために世界中を旅してきた三神だったが、ヒマラヤ山脈の奥地に行くのは初めてだった。その過酷な気象条件に大自然の厳しさを改めて感じた。
 イエティについては、事前に目撃情報などを集め、それらを丹念に調べていた。そして、自分なりの仮説を立ててヒマラヤ山脈に入りイエティを探し回った。しかし、約2カ月が過ぎたが、見つかる気配は全くなかった。
「そう簡単に見つかるわけはないか」

 ある日、イエティを探して山奥を歩いていた三神は、急に周辺の異変を感じた。地質学の分野にも詳しい三神は、地質や気候の様子から、この近くで間もなく雪崩が発生する気配を察知した。
「まずい。早く逃げないと!」
 三神はあわててその場から逃げようとした。
 そのとき、三神は前方を一匹の見たことのない奇妙な生き物が足を引きずりながら歩いているのを見つけた。
 その生き物はなんと、二足歩行をしていた。全身は毛におおわれていたが、背丈は人間と同じくらいだった。
 三神はあわてて木の陰に隠れた。
「何だ、あの生き物は……。サル、チンパンジー、いや……」
 その生き物を見るのに夢中になっていた三神はハッとした。
「そうだ、こんなことをしている場合じゃない。雪崩が来るんだ!」
 あわてて走り出した三神は、奇妙な生き物を抜いていく際に声をかけた。
「ここから早く逃げるんだ。雪崩が来るぞ!」

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