小説

『ともしび少女』香久山ゆみ(『マッチ売りの少女』)

 さすがの健気な少女も、もうだめかもしれないと思った。
 がちがちと歯が鳴り、震えが止まらないのに、なぜだか寒さが遠くなっていく。これではいけないと、少女はマッチを擦った。
 一本ではどうにもならない、二本、三本、と火をつけるが、吹きつける風にすぐに消されてしまう。結局、数本まとめて火をつけたりするうちに、持っていたマッチをすべて擦ってしまった。一銭の売り上げもないのに。しゃがんだ少女の目の前で、マッチ箱ごと燃やした炎もじきに消えてしまいそうだ。
 その時。
「こんな寒波の夜に、あんた何してんの?」
 少女が顔を上げると、派手な化粧をした女が見下ろしていた。
 窓から炎が見えて、火事かと慌てて駆けつけてみたら、真っ白な顔をした少女を見つけたのだという。まあうちにいらっしゃいな、死んじゃうわよ。そう言って、女の店に連れて行き、温かいスープを飲ませてくれた。
 女の店は古びたスナックで、他にも同様に派手な姿の女が二人いた。少女を助けた女がこの店の店主で、スナックの店主は「ママ」と呼ぶのだという、こんな寒いと今夜は誰も来やしない。あはは、と女たちは豪快に笑う。少女はただ大人しく出されたスープをちびちびとありがたく飲んでいた。もう家には帰れない。絶望に、喉が締め付けられるようだった。
 ところが、少女の身の上話を聞いたママが「うちで働けばいいさ」と言う。
 けれど、少女は女達のように美しくないし、夜の女がどのような仕事をするのかも知らない。返事に窮していると、「ちょうど皿洗いを募集してたんだ」とママがウインクした。
 その夜から少女はそのスナックで裏方として働くようになった。両親にはマッチ売りに行くと言って家を出て、一晩スナックで働いて帰宅する。マッチ売りよりも十分な給金を与えられた。
 店で働くことで、少女はいろいろ学んだ。
 なぜマッチが売れないのか、少女は理解した。スナックでは、店名の入ったマッチを客へただで渡していた。ただで! それに、最近はライターという便利な着火機が、少女の売るマッチとほとんど変わらぬ値段で売られているのだ。わざわざ金を出してマッチを購入する客がいないのも頷ける。
 また、店の女が教えてくれた。
「あんた、その赤いケープを着るのはよしなさいな」
 赤い服を着て夜の街に立つのは娼婦のしるしなのだという。知らなかった。道理で男から厄介な声を掛けられることが多かったわけだと腑に落ちた。そうして、かなしくなった。娘に赤い外衣を着せることでしか生活のできないうちがかなしかった。

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