小説

『吉備団子フォーエバー』アキ・オオト(『桃太郎』)

(2)
 三か月後、工場から運び出された大量の吉備団子が入った段ボール箱が次々とワゴン車へ積まれていく。工場の前には老若男女、多くの人だかりができている。彼らはこれから佑真が率いる犬軍、才太郎が率いる猿群、そして沙理が率いる雉軍の三部隊に分かれて鬼討伐へ向けて出発をする。桃香の先代である十九代目桃太郎が鬼討伐へ向かったのが今から三十年も前のこと。もちろんその当時桃香はまだ生まれていないが、資料などで知っている数字と比較すると、その時の志願者の十倍以上の人数が今回集まっている計算になる。ありがたい話である。だが、集まった人の数が多ければ、それだけ今回の旅に必要となる吉備団子の数も莫大となる。この数か月間、工場をフル稼働させ作り続けたが、それでも予定より随分と時間がかかってしまった。
「これだけ人が一同にそろうと、何だか感無量ね」
 桃香は小高くなった丘の上から、人々の様子を見つめていた。
「才太郎が効果的な宣伝をしまくったおかげですかね」
 隣に並ぶ佑真が言った。
「そうね、あとは沙理の吉備団子リニューアル作戦。私じゃきっとできなかったもん」
「ええ」
「あ、もちろん、あなたの統率力もだからね」
 桃香は慌てて言葉を足した。
「全てあなたたちのおかげ」
「ちょっと、何をもう終わったような満足感を漂わせてるんですか。今からが本当の始まりですよ」
「はは・・・そうだね・・・」
 桃香は人々がいるのとは逆の方、これから皆で向かう西の方角に広がる空の彼方を見つめた。薄くひろがる雲に隠れてその先にある目指すべき山の頂を確認することはできない。
 あの雲の先に私の目指す場所、鬼の城がある。

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