小説

『賢女たちの贈り物』町並知(『賢者の贈り物』)

「せーの、メリークリスマース!」
 せーのと言いながらプレゼントを胸の前に持ち、メリークリスマースと言いながら相手に差し出す。タイミングもイントネーションも毎年同じだ。
 早紀と舞は毎年12月25日に食事をして(24日は予定がある場合に備えて空けておく)、デザートとコーヒーの時にプレゼントを渡す。プレゼントの金額は事前に話し合って決めるようにしている。今まで、早紀が高いバッグを買った後の金欠で千円だった時もあるし、2人とも余裕があった時には奮発して3万円だった時もある。でも決めているのは金額だけだから、十分サプライズ感を味わえる。金額を合わせることで余計な気を遣わなくていいし、プレゼントも縛りがあって選びやすい。すごくいい方法だよね、世の中みんなこうすればいいのにと、毎年2人でこの方法を自画自賛する。今年は7千円、平均的な値段だ。
「わあ、ボードゲーム?」
 真剣な顔つきで紙袋やらリボンやら箱やら包装紙やらを脱がせて、先にプレゼントにたどり着いたのは舞だった。
「舞、子育てしてると夫婦の一緒に過ごす時間がないって言ってたでしょ。大輝くんへのプレゼントはみんなからもらうだろうから、私はあえて夫婦お2人で使えるプレゼント」
「覚えててくれたんだ。ゲームがあると一緒に過ごすきっかけになるよね」
「クアルトっていうボードゲームで、ルールはシンプルなんだけど結構おもしろいの。バーに置いてあって、私も知ったんだけどさ。見た目もおしゃれだし、インテリアとしてもいいかなと思って」
「この木の感じいいよね。外国っぽい。帰ったら早速2人でやってみるよ。ありがとう」
 舞と会話しながら手を休めなかった早紀も、やっとプレゼントと対面した。
「ん? 何だろう? いろんなの入ってるけど」
「革製品のお手入れセットなの。ブラシとか汚れ落とし、艶出しとか全部入ってて、プロも使ってるやつなんだって。早紀、靴とバッグを手入れしてるかどうかで人間がよーく見えるって言ってたじゃん」
「すごーい。専門店で磨いてもらうの結構お金かかるから、自分で始めてみようかなって思ってたところだったの。これ全部揃ってるから、すぐ始められるじゃん。ありがとう」
 早紀は地方出身で、難関大学を出て編集者としてバリバリ働いている。舞は東京出身、女子大を出て開業医と結婚、息子を産んで専業主婦。同い年でもこんなにタイプの違う2人がなぜ親友なのか、それぞれの知り合いからもよく不思議がられる。大学時代、アパートの部屋が隣同士だったからだ。大家さんが一階に住んでいていろいろと世話を焼いてくれるような、古いタイプのアパートだった。エアコンはなく、洗濯機は出入り口の横の廊下に置いていた。一人暮らしの心細さもあり、すぐに仲良くなった。大学を卒業してアパートを引っ越しても友情は続き、今年28歳まで毎年クリスマスには食事をした。舞は早紀が第一志望の出版社に就職した喜びも、失恋も、後輩に仕事を取られた悔しい思いも、お母さんが亡くなった悲しみも全部知っている。早紀は舞が婚活に励んでいたことも、結婚できた喜びも、不妊で悩んだことも、義理の両親との不仲も全部知っている。だからこそ毎年、相手へのプレゼントを選べるのだ。

1 2 3 4 5