小説

『飛び立つという事。』鷹村仁(『イカロス』)

 緊張して声が震える。玲子姉さんは不可解な顔をしてジッとこちらを見つめて黙っている。それも無理はなくまともに話しかけるのなんて一年ぶり位な感じだ。
「何?」
「あの・・・。」
 なんて言っていいか迷う。「格好良くなりたい」で通じるのか、「モテるようになりたい」がいいのか、訳の分からない事を言うと怒られてしまう。
「さっさと言って。」
 イライラした口調で突き刺してくる。
「あの、お、お願いがあるんだけど。」
「相談?お願い?どっち?」
「いや、どっちもあって、他に、あの、いえ、言える人がいなくて。」
「じゃあ、あと十秒以内で言って。」
 十、九、八、早々に姉のカウントダウンが始まった。「あ、あ、あ、」とこちらがまごついていると、五、四、三、と無情にもカウントダウンが終わろうとしていた。
「ゼロ。」
 玲子姉さんは真顔でカウントダウンを終わらせ、その場から歩き出した。
「あ、あの!だ、だから、」
「だから何!」
鋭い声で玲子姉さんが突き刺してくる。しかしここで言わなければ多分二度と話しかけられないと思った。
「あ、あの、か、か、かこ、かこ、格好良く、な、なりたいです!」
 思わず叫んでしまった。無言の姉。
「・・・もう一回言って。」
「あ、あの、格好、格好良くなりたいです。」
「誰が?」
「ぼ、僕が。」
「何で?」
「モ、モテ、モテモテモテたいんです。それでヤリ、ヤリたいんです。」
「・・・私に何をしてほしいの?」
「か、格好良くして欲しいんです。」
 玲子姉さんはジッとこちらを睨みつける。
「本気で言ってんの?」
「ほ、本気です。」
「ちゃんと目を見ろ。」
「は、はい。」
「途中で音を上げない?」
「あ、あげません。」
「言う事ちゃんと聞く?」
「聞きます。」
「あっそう・・・。」

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