小説

『主婦とスキャンティ』緋川小夏(『シンデレラ』)

 小松雅子は動揺していた。
 洗濯機の前で仁王立ちしている雅子の手には、小さなパンツが握られている。今年ハタチになる娘のパンツは買い替えるごとに小さくなり、その面積に反比例して色や装飾は派手になっていた。
 しかもそれらは必ずブラジャーとお揃い(セットアップというらしい)で、娘いわく「セットアップじゃないと恥ずかしくて友達に見せられない」のだそうだ。元々、下着なんて他人様にお見せするようなものではないはずなのに、今どきの若い子の考えることは本当によくわからない。
 無駄にデコレーションされたショッキングピンクの極小パンツ。雅子はそれを眺めながら、深いため息をついた。

「ちょっと遥香。なんなの、この派手なスキャンティはっ!?」
 雅子は帰宅した娘の遥香に詰め寄った。
「は? スキャンティ? 何それ」
 解説しよう! 『スキャンティ』とは、きわめて丈の短いショーツのことで、いわゆる『パンティ』よりもローライズで布面積の小さなものを指す。履きこみが浅く、ゴムが内側に縫い込まれたインゴムなのが特徴だ。日本の70年代から80年代に流行し、当時の若い女性はこぞって、このタイプのパンツを着用していた。
「何それって、この小さいパ、パ、パンツのことよ」
 恥ずかしさと怒りで頭に血がのぼる。そうでなくても最近は更年期の症状に悩まされていて、すぐに暑くなってのぼせてしまう。ホットフラッシュは一気に汗が噴き出すので、普段からタオルと汗ふきシートが手放せない。
「なんだ、パンツのことか……じゃあ最初からそう言ってよ。で、あたしのパンツに何か問題でも?」
 鳩が豆鉄砲をくらったような顔とは、こんな顔のことを言うのだろう。遥香はいかにも意味がわからない、と言いたげな表情で目を大きく見開いて口を尖らせている。
「問題あるわよ。大ありよ。お母さんは、こんな恥ずかしい下着を身に着けるような娘に育てた覚えはありません!」
「ちょ、帰ってくるなり何よ。別にいいじゃない下着くらい好きなデザインの買ったって」
「そういう問題じゃないの。嫁入り前の娘が、こんな破廉恥な……」
 すると、それまで怪訝な表情をしていた遥香が、呆れたように笑い出した。
「ハレンチって、それ完全に死語でしょ。今は平成だよ、お母さん。もうウケるぅ~」
 何がそんなに可笑しいのか、遥香は両手を顔の前で何度も叩きながら涙を流さんばかりに笑っている。
「それに嫁入り前って、こんなの若い今だからこそ穿けるんだよ。実際、お母さんのパンツなんて色も形も超絶ババ臭くて女としては完全にオワコンだもんね」

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