「お、おわこん?」
「つまり、終わったコンテンツってこと」
思いがけない娘からの反撃に、雅子は言葉を失った。
「そもそもスキャンティって、一体いつの時代の言葉よ? もう、お母さんの言うこと何もかもが昭和すぎて爆笑だよ」
それだけ言うと、遥香は洗濯物を持って鼻歌を唄いながら自分の部屋へ行ってしまった。
ひとりリビングに残された雅子は、何も言い返せなかった自分自身に落胆していた。
オワコン、超絶ババ臭い、何もかもが昭和……遥香に投げつけられた言葉の欠片が、頭の中でぐるぐる回っている。やがてそればボディーブローを食らった後のように、じわじわと雅子の心に深いダメージを与えていた。
ふと視線を移すと、ソファーの上には取り込んだばかりの洗濯物が、きちんと畳んで置かれていた。その中から自分のパンツを取り出して目の前で広げてみる。確かにデカイ。色は安心感のあるベージュが基本だ。そして伸縮性があって、よく伸びる。でも残念ながら、それら全てが可愛らしさとは対極の機能だ。
遥香が六歳の頃に離婚してからというもの、雅子は女手ひとつで馬車馬のように働きながら子育てをしてきた。そんな忙しない暮らしの中で、いつしか自分の下着になど何の関心も持たなくなっていた。
穿ければいい、尻が隠れればいい、それで安くて丈夫なら完璧だ。
でもそれは、そんなにいけないことなのだろうか? 自問自答しつつ、雅子は考える。これは自分のことは後回しにしつつ、家族の為に身を粉にして仕えた結果なのだ。だから決して恥じるようなことでは無いはずだ。
そう思って自らを奮い立たせてみても、萎えてしまった気持ちはそう簡単には元に戻らない。更年期の女は、まわりが思うよりもずっと繊細でナーバスなのだ。
一生懸命、生きてきたはずなのに。自分はもう女として終わっているのか……。そう思うと情けなさに押しつぶされそうになる。雅子は手に持っていたパンツで、流れ落ちる汗をそっと拭った。
それからも家事に仕事に孤立奮闘する日々は続いた。毎日、毎日、判で押したように同じことの繰り返し。雅子は、時おり小さな泡のように湧き上がる疑問や諦めの気持ちに蓋をしつつ「これでいいんだ」と、無理やり自分に言い聞かせていた。
そんな、ある日のことだった。
「お母さん。はい、これ」
朝食の後片付けを済ませて、ぼんやりと新聞に目を通しているときだった。いきなり遥香に声を掛けられて、雅子は我に返った。
「え、なに?」