小説

『王様の選択』室市雅則(『裸の王様』)

ツギクルバナー

 裸やないか。
 姿見の前で王様は一人で呟きました。
 子持ちシシャモのような腹が青と白のストライプのパンツに乗っかっています。
 正面を向いたり、横を向いたり、振り返ってみたりと何度かポーズを変えますが、王様の表情は晴れません。
 どないしよう。
 真剣な面持ちでパンツ一丁の王様が衣装室の中をうろつき始めました。
 しっかり靴を履いて、王冠まで被っているのが逆に寒いわ。
 裸やん。どう見たって。
 これでパレードに出るのはあかん。ジム行っとけば良かったわって、そういう問題違うな。
 裸で街を練り歩く王様に付いて行こうなんて思う民なんておるわけないやん。速攻、引っ越されてまう。そうなってもうたら人口が減って、農業やら産業がにっちもさっちもいかへんことになって国が滅んでまう。そうなったら、食べるものも着るものも無くなって国が裸になってまう。
 それはあかん。
 みんなが不幸になる。そんなの王様失格や。
 どないしよ。
 もういつもの服に着替えよかな。
 でもな・・・ 
 わざわざ誕生日パレードをやってくれるんやしな・・・
 欲かいて騙されたのも悪いのは、分かっとるけど、あのペテン師ほんまに。
 王様は姿見の前で立ち止まるとドアをノックする音がしました。
 はい。

 メガネをかけたロマンスグレーのおじいさん大臣が王様の様子を伺いに衣装室にやってきました。
 王様、御仕度の具合はいかがでしょうか?
 ま、まあ。なあ、改めて聞きたいんやけど、ほんまに似合ってるかな?
 大臣は下を向きました。

1 2 3 4 5 6 7 8
コメント
  • 不視見零

    ええな、このお話!
    思わず途中から、ワシも裸で読んでしもうたわい。周りの人からの視線が、痛いこと痛いこと……うむ、痛快じゃ!
    王様赤っ恥の物語の筈が、読み手の心温まる作品に仕上がっとる。唯一の疑問点は、三点リーダの代わりに中黒(・)が使われていたことぐらいじゃのう。
    出来ることなら、ワシもこんな良い国に住みたいものじゃ。隠居後は、是非お邪魔させて貰おうかの!
    by 紳士のおじいちゃん

  • るい

    テンポのいい語りに何度も笑ってしまいました。
    この国の王様は人望があるんだなぁ、みんな捨て身になれるんだなぁ、と感動しそうなのですが、
    「だが、全裸だ」と思うと、やっぱり笑っちゃいます。くさくさした時にスッキリできる、素敵な作品ですね!

  • http://bookshorts.jp/ bookshorts

    会話のセンス、構成のテンポの良さ、そして締め方。自分では思いつけない展開で羨ましく感じました。(2月期優秀賞受賞者:洗い熊Q)

  • http://bookshorts.jp/ bookshorts

    誰でも思いつきそうな「物語のもしも」を描いてはいるが、関西弁のテンポいいやりとりが芸人同士のかけあいみたいで読みやすい。(2月期優秀賞受賞者:逢坂一加)

  • お茶

    通勤の電車で楽しく読ませていただきました!心温まるラストでした!私も王様に負けないよう仕事がんばりまーす!