小説

『王様の選択』室市雅則(『裸の王様』)

 裸やないか。
 姿見の前で王様は一人で呟きました。
 子持ちシシャモのような腹が青と白のストライプのパンツに乗っかっています。
 正面を向いたり、横を向いたり、振り返ってみたりと何度かポーズを変えますが、王様の表情は晴れません。
 どないしよう。
 真剣な面持ちでパンツ一丁の王様が衣装室の中をうろつき始めました。
 しっかり靴を履いて、王冠まで被っているのが逆に寒いわ。
 裸やん。どう見たって。
 これでパレードに出るのはあかん。ジム行っとけば良かったわって、そういう問題違うな。
 裸で街を練り歩く王様に付いて行こうなんて思う民なんておるわけないやん。速攻、引っ越されてまう。そうなってもうたら人口が減って、農業やら産業がにっちもさっちもいかへんことになって国が滅んでまう。そうなったら、食べるものも着るものも無くなって国が裸になってまう。
 それはあかん。
 みんなが不幸になる。そんなの王様失格や。
 どないしよ。
 もういつもの服に着替えよかな。
 でもな・・・ 
 わざわざ誕生日パレードをやってくれるんやしな・・・
 欲かいて騙されたのも悪いのは、分かっとるけど、あのペテン師ほんまに。
 王様は姿見の前で立ち止まるとドアをノックする音がしました。
 はい。

 メガネをかけたロマンスグレーのおじいさん大臣が王様の様子を伺いに衣装室にやってきました。
 王様、御仕度の具合はいかがでしょうか?
 ま、まあ。なあ、改めて聞きたいんやけど、ほんまに似合ってるかな?
 大臣は下を向きました。

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