小説

『王様の選択』室市雅則(『裸の王様』)

 はい。大変お似合いでございます。
 ほんまに?
 はい。
 ほんなら、なんでこっち見いひんの?目見て言ってや。
 畏れ多くございます。
 なんでやねん。いっつも見てるやん。なあ。
 大臣はゆっくりと顔を上げ、王様と目を合わせて微笑みました。
 大変お似合いでございます。
 そう言うとすぐに再び下を向きました。
 ありがとう。最初にな、機織り職人の作業を確認してくれたの覚えてる?
 はい。
 そん時、ええ感じやって報告してくれたやん?
 はい。
 大臣の背中を汗の玉がつたったので背筋がヒュンと伸びました。
 その時と比べてどう?
 どうと申しますと。
 王様は両手を広げました。
 お腹が牛乳プリンのように揺れました。
 デザインとか柄とかどんな具合なのかなって。
 大臣はゆっくりと返事をしました。
 大変結構なものでございます。
 王様は自分の裸体を隠すように胸の前で腕を組みました。
 ちょっと、一つええかな?
 大臣は油の切れたロボットみたいに膝を折ろうとしました。
 ちょ待ち、膝悪いんやから、そんなことせんでええ。
 申し訳ございません。
 大臣は頭を下げました。

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