小説

『王様の選択』室市雅則(『裸の王様』)

 何なりとお申し付けください。
 訊きたいんやけど、俺、裸ちゃう?
 大臣は耳をピクリと動かしただけで、頭を下げたままでいます。
 王様も大臣の反応を待ちますが、大臣は一向に頭を上げる様子がありません。
 沈黙が衣装室を支配しました。
 その空気に耐え切れず、王様は頭を掻きました。
 なーんちゃって。驚いた?変なこと訊いてもうたな。
 相変わらず大臣は頭を下げたままです。
 いえ。ただ・・・
 ただ?
 王様は決してお一人でありません。民も王様を慕っております。
 ほんまに?
 はい。それでは。
 そう言って大臣は顔を上げることなく去って行きました。

 再び一人になった王様は大きく息を吐きました。
 めっちゃ空気重かった。ごっつ気ぃつこてたやん。
 分かってはるんやろうけど、言えへんやろうな・・・。逆だったら俺も言えへんもん。
 だってあれだけ、みんなが口々に絶賛したら『俺だけ見えてへんとか思われたらヤバい』って思うもん。そいで、俺も言うに言えなくて、ノリで『ええな』とかアホみたいに言うてもうたのが決定打やったな。俺が言うたら、他のみんなも『何にも着てないやん。裸やん』って言えへんもん。
 俺だけに見えへんとかじゃなくて、やっぱり裸やろうな。
 王様は手のひらで全身をさすりました。
 寒いもん。さぶいぼ出とるし。
 どないしよ。やっぱり服着よかな・・・。そういやサラの肌着あったから、せめてそれくらい着とこかな。
 あのペテン師のボケたちはほんまシバくとして、こうなったら誰か言うてくれへんかな。
 でも、俺も一国一城の主やし、この土壇場でも乗り切れるかの試練のような気もするし。
 王様は一人で頷きました。

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