小説

『夏は気球に乗って』義若ユウスケ(『春は馬車に乗って』)

西瓜が空から降ってくる。
夏。

「西瓜」と書いて、にやり。
「南瓜」と書いて、にやり。

東瓜と北瓜に思いをはせます。

西瓜模様のバスケットボールが描く、高い放物線。
スリーポイントシュートです。
公園で弟とふたりきり。
すこし髪が伸びはじめていて、ぎざぎざした輪郭の坊主頭が可愛らしい。
この夏、弟はよくがんばった。
まだ夏は、始まったばかりなのだけど。

八月。
お父さんの庭では、茄子の花が咲き乱れている。

今年の夏は、気球に乗ってやってきた。

西瓜の気球が音もなく小学校の裏山に着陸した日、私は十九歳になった。
七月二十四日。
アレクサンドル・デュマとおなじ誕生日なのです、私は。
わくわくしながら、遠くの山頂でみるみるしぼんでいく西瓜の風船をめざして、私は自転車を走らせた。

「じゃあ君は、デュマと誕生日がいっしょなんだね」
と彼にいわれて、私はうれしかった。
アレクサンドル・デュマの誕生日は、イエス・キリストの誕生日ほどには有名じゃないし、知っていてもうらやましがって、知らないふりをする人が多いから。
「そうです。だから私は、高校生の時、文化祭で王妃マルゴを演じたのです。推選じゃなくて立候補だったから、友だちには嫌な顔をされてしまったけど」
彼は冒険家だった。
「僕もむかし、モンテ・クリスト伯をやったことがあるよ。あれはいつだったか……やっぱり、学生のころだな。すごく、楽しい思い出だ」

君の話をもっときかせて。
この町の話も、ききたいなあ。
僕の話?
まあ、気が向いたら。

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