小説

『夜鷹の星』春日部こみと(宮沢賢治『よだかの星』)

「お前はよだかだな。なるほど、ずいぶんつらかろう。今度空を飛んで、星にそうたのんでごらん。お前は昼の鳥ではないのだからな」
 そうして夜になって、夜鷹はまた紺色の空を飛んだ。
 今度は銀に煌めく星に頼んだ。
「お星さん。青く銀色に煌めくお星さん。どうかおれをあなたの所へつれてって下さい。やけて死んでもかまいません」
 すると星はせせら笑った。
「余計なことを考えるものではない。少し頭を冷して来なさい。そう言うときは、氷山の浮いている海の中へ飛び込むか、近くに海がなかったら、氷をうかべたコップの水の中へ飛び込むのが一等だ」
 そうか。
 やはりおれはひとりのままなのだな。
 太陽にも星にも拒まれて、灼けて殺されることすらかなわない。
 夜鷹は静かに泣きながら、高い空を飛ぶことをやめた。
 すごい勢いで身体がぐんぐんと墜ちていく。
 ――――それならば、もう永遠に目覚めなければいい。
 夜鷹は目を閉じた。
 瞼の裏は闇のはずなのに、なんだかとても明るいように思われた。

***

 ふう、と浮かび上がるように目が覚めて、鷹は辺りを見回した。
 そこは夜鷹の小屋で、先程まで耽っていた淫奔の気配はすっかりと消えて、ただ静寂な土の匂いが漂っていた。
 自分のすぐ傍で、夜鷹が白い裸体を白魚のように横たわらせて眠っている。
 手は縛られたままで辛そうだ。
 さすがに可哀想に思ったが、けれど、と小さく首を振った。
 逃げ出そうとした夜鷹が悪い。
 夜鷹はおれのものなのに。おれの名が入った夜鷹なのに。

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