純白な一面。薄れも汚れもない、崩れも足跡もない雪面。
昇ってくる朝日に、結晶の一粒一粒が応えきらきら光り。
澄み切った高い空には雲一つ無く、星がまだ見えそうな藍色から、陽の温かみを感じさせる浅紅の色が混ざっていく。
そんな空に向かって僕は掲げる。
鮮紅を放ち、空気と擦れる音を響かせる発煙筒を。
「おーーい! おーーい!」
木霊の無い雪山に向かって僕は叫び続ける。
雪にひざまずき上半身は半袖で。身体からは湯気を、そして白い息を一杯に吐きながら、立ち昇る白煙を渦巻く様に発煙筒を振る。
僕の叫びに応えるように遠くから軽敏なエンジン音が近づいて来ていた。
――僕は何をやっているのか?
昨晩の出来事の前、こうなるとは想像もつかない。
閉め切られた雨戸。その隙間から無理に入り込もうとする風がガタガタと小さく戸を揺らす。
それ以外の音は外からは聞こえては来ない。
静かだが、外は嵐のようなものだ。
予報を遙かに越える猛吹雪。僕は山小屋の中に一人閉じこめられていた。
――閉じ込めれている表現は冗談でも大げさか。
冬はこの大きくはないロッジで過ごすようになって二年。叔父の持ち物である山小屋で冬にだけ管理の仕事を手伝っていた。
ロッジというが宿泊設備などは充実していない。夏場の避暑地としての活用が主で冬場は登山客で急なビバークの為に解放している位だ。
立地も中途半端な場所。山麓にあるものの、車で行けば十数分で大きな市街地へと出る。
冬場の週末、その時だけは僕が在中している。
予想に反して人は意外と訪れる。道に迷ったり、急に体調が悪くなったりと理由は様々。
でも人が来ると、僕が居る意味があると思えるから未だに手伝いをしているのかもと。
――今日の天候。事前に警報がされていたもあるが、誰も流石に訪れないだろう。