小説

『冷蔵庫の中の女』洗い熊Q(『雪女』)

「まあ、ここで助けを待つのは大丈夫ですよ。そういう場所ですから。泊まる事も可能ですし」
「助かります。しばらくはここに避難させて貰います……落ち着いてから電話をさせて下さい」
「構いませんよ。僕の方から連絡しときます。……取り敢えず温まっていて下さい」
「本当にありがとうございます」
 軽くお辞儀をして二人は石油ストーブの前へと行った。
 手を差しだしストーブで温めながら、二人は顔を近づけて小声で語り合っている。赤い服の男は人当たりが良さげだったが、黒い服の男は二人で話していても無愛想な様子だ。
 何だろうこの二人……。
 不審に思えたが今はどうしようもない。この天候じゃ何も出来ない。
 電話で叔父に相談するか? 叔父はここからそう離れていない場所で旅館を経営している。
 移動できれば宿泊設備は整っているし、安心して待つ事が出来るだろうし。
 男性二人をちら見し、そして暖炉の前に座る彼女を見てそう考えていた。
 その最中――ジリリンっと居間に古くさい音が響く。山小屋に設置されていた電話の音だ。
 急いで受話器を取ると、電話口向こうから雑音に混じって聞き覚えのある声が聞こえた。
「――おお、お前かっ? 大丈夫かっ?」
 叔父だ。電話する手間が省けたと思った。
「あっ、叔父さん。 大丈夫って何? 何かあったの?」
「――いや、酷い吹雪だから心配していたんだ。お前は避難しなくて大丈夫か? こっちも無理しなければ身動きできないしなぁ」
「そんなに酷いの?」
「――ああ、避難勧告もでてる地域もあるぞ。車での移動も難しいな、こりゃ」
「そうなの……建物は大丈夫。燃料もあるし、薪も充分に蓄えがある。朝になって吹雪は止むでしょ? それまでは安全に過ごせるよ」
「――そうか。何か不都合があったら、山岳救助か山岳会のキヨさんに連絡しろ。もし動けそうならこっちに来ても構わないぞ」
「ああ、そうだ叔父さん。三人ほどこっちに避難している人がいて……一人は道に迷って、二人は車が立ち往生したらしいんだ」
 そう言いながら僕は振り返り、三人の様子を伺った。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13