小説

『ブリコラージュ』柿沼雅美(『流行歌曲について』萩原朔太郎)

ツギクルバナー

 痛っ、と思って目を開けると、見覚えのない天井が広がっている。絡まった髪の毛を指でいじりながら見つめる。全然自分の趣味じゃない、裸電球の周りに鳥の巣があるみたいなデザインの照明がぶらぁと垂れ下がってきている。
 なんだったんだっけ昨日、と思いながら、あっ、と思う。
 隣には、15年ぶりに会った飯田慶一郎が口を半開きにして寝ていた。ちょっとだけ感じた朝特有の口の臭いみたいなのはこれか、と思った。
 この口が昨日は、現代の日本は歌を失つている時代だと言い続けていたんだ。魂の渇きに水をあたえ、生活の枯燥を救ってくれる芸術であるのに、それがないなんて、としきりに嘆いていた。日本の現実する社会相と接触し、民衆のリアルな喜怒哀楽を表現している芸術はCDやらテレビやらで歌われてる、町の流行歌でしかないなんて、と舌を巻いて絡んできていた。
 上半身を起こすと、何年も使い込んでいるだろう毛布がはらりと落ちた。服は着ている、そりゃそうだ、と思う。38にもなって久しぶりに同窓会で再会して一夜限りの関係なんてするほどバカじゃない、下手な昼ドラじゃあるまいし。あれ、もしかして38だからそれくらいしてもいいのか、ともやもや考えながらベッドをおりた。
 壁には男子高校生の部屋のように私には分からないバンドのポスターが貼られていて、1DKの部屋の角にはギターが壁に立てかけてあって、目線の先に見える冷蔵庫は小さい。空のペットボトルがいくつも入ったゴミ袋がキッチンの入り口を塞いでいた。
 「なにしてんの?」
 慶一郎の声がして、見ると真夏から使っているんだろうタオルケットを蓑虫のように巻いてこっちを向いていた。
 「敬子ちゃん、昨日のこと覚えてる? 俺なにもしてないでしょ、偉くない?」
 慶一郎はそう言って、のっそり起き上がった。少し長めの前髪をかきあげている。
 「偉いも何も、する気にならなかっただけでしょ?」
 冷蔵庫を開けながら返した。
 「えー違うよ、俺はいっくらでもオッケーだったけど、ここで何もしないのが逆にパンクかなと思って」
 冷蔵庫からボルヴィックをもらって一気に飲んだ。
 「なにそれ、なんか昨日もそんなこと言ってたよね、パンクだとかロックだとか」
 ボルヴィックを持ってベッドに戻っても慶一郎は動こうとしない。昼にならないと体がだるそうなままなのは学生時代から変わっていないようだった。
 「俺はそうやって生きてるってこと」
 私は、どうでもよくて、ふぅん、とだけ返事をした。

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