小説

『ブリコラージュ』柿沼雅美(『流行歌曲について』萩原朔太郎)

 「だってさ、敬子ちゃん、結婚式の余興とかやりたいと思う?」
 「だからなんで結婚式? 余興はイヤだけど」
 「ほら、イヤだろ。俺も大っ嫌いなわけそういう結婚式。新郎新婦の出会いから今日までをまとめた素人のホームビデオとか、同期だか友人だかのつまらねぇ余興とかさ、お色直しとかも、そんなに見せびらかしたいかよって思うし、両親への手紙とかも家でテメェでやれって思うわけ俺は」
 うーん、と言いながら、会社の後輩の結婚式で、同じことを思いながらテーブルで伊勢エビをつついて感動したふりをしてパチパチ拍手をした記憶が蘇ってきた。
 「あいつらマジ終わってる」
 そう言いながら慶一郎は立ち上がって、コンビニ袋からもう1本のビールを出してさっきよりも近い距離に座った。
 「またそういうこと言う。軽音部の人たちに、まだバンドなんてやってんの? って言われたのまだ引きずってんの?」
 「ちげぇよ、元々あいつらの気持ちが軽いだけだって。別々の大学になっても音楽だけは一緒にやってくって言ったのに、3年になったら当たり前のように就活だからしょうがないよな、みたいな雰囲気でさ、冗談かよ、って」
 「それ普通だから」
 「いや、待て、敬子ちゃん、普通ってなに? 誰が何言ったら普通なの? 殺人しちゃいけないとかそういうのは分かるよ、でも、普通なんてもんはそう思う人が大勢ってだけの話だろ?」
 「んー、まぁそうなるのかな、どうだろ」
 「言っとくけど、だいたいみんなが今支持してるものって、その普通から抗うところから始まってんだよ。敬子ちゃん、学生の頃ロックバンドのキーホルダーカバンにぶら下げてたじゃん?」
 「あぁあったね、持ってた持ってた」
 彼らは今でも活動しているはずなのにどうしてライブに行かなくなってしまったんだっけ、と一瞬思う。
 「昔はさ、フォークとかが主流だったりしたわけだよ、市民権を得てたわけ。ポピュラーだったわけ。それに反抗して出て来たのがロックだったりなわけだよ。でもすでにそれもポピュラーだろ? そうやって時代が創られていくんだよ。一般的なものへの反抗や異議、そしてより激しいものになってくわけ」
 へぇ、と豆知識を聞いている気分で返事をする。
 「パンクだって最初は個人の自由や反体制的なものだったんだよ。でも、もう受け入れられてるだろ? 俺はパンクはいろんなものに言えると思うわけ、現代アートみたいなものとか、ファッションだって、文学だってパンクって言える。一般的なものを超えるもの、俺はそうやって生きていきたいんだってば」

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