小説

『カブオレポート』五条紀夫(『おおきなかぶ』)

ツギクルバナー

 カブオ(仮名)の父は決意した。
 息子を部屋から出さねばならぬ、と……

 間もなく三十歳になろうとしているカブオは、筋金入りの『引きこもり』である。世間からは、ニートやら、ヒッキーやら、廃人やらと揶揄され、父としては当然ながら悩みの種であった。

 カブオはかれこれ十年近く部屋から出ていない。同じ屋根の下に暮らしてはいるが、家族達は長いこと彼の姿を見ていないのであった。
 扉をノックしようと返事はなく、時折、生きているのかと不安になるが、カブオの母が夜に扉の前に食事を置けば、翌朝には食器が空になっているので、元気ではいるようだ。
 とはいえ、このままの状態が続くのは健全ではない。そこで父は引きこもりの社会復帰を応援している団体に、相談を持ちかけたのであった。

 団体からは、まずは、と前置きがあってから、助言が与えられた。絆が大事である、認められる経験が必要である、根気良く構えよ、そういった長い説明をされたのだが、平たく言えば、家族一丸となってカブオに接せよ、という趣旨のことであった。

 父は頭の中で、家族一丸、と復唱した。
 家族一丸となって、息子を部屋から出さねばならぬ。

 どうにか二十代のうちに社会復帰させてやろうと、いよいよ父を筆頭とした家族達は、カブオの部屋の前に集合した。

 父がノックする。ところが、当たり前のように返事はない。
 しかしながら、かすかに衣擦れの音がする。カブオは、無言ではあるが、扉の外に控えている家族達を意識してはいるのだろう。

 父は意を決し、カブオに声を掛けることにした。

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