小説

『カブオレポート』五条紀夫(『おおきなかぶ』)

家族達は視線を送り合い、意を決して扉の向こうに声を掛けた。

「カブオ、ネズミはいるか?」
「カブオちゃん、ネズミはいる?」
「カブオ兄ちゃん、ネズミがいるなら出して」
「ワンッ」
「ニャー」

 その声は幾度も繰り返され、やがて、その時がやってきた。
 カブオの部屋の扉が、薄く開いたのである。

 隙間から、湿った空気と共にカブオの手が差し出される。久し振りに見た息子の手を、父は握り締めた。

 そして、受け取った。

 父の手には、一匹のネズミがいた。

「チュー」

 こうして、無事、ネズミは部屋から出てきたのであった。

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