「カブオ。お父さんだよ。元気か?」
けれども、やはり返事はない。
どうにかなるまいか、と父は考え、そして、復帰団体から授かった言葉を思い出した。カブオには、認められる経験が必要なのである。
父が更に声を掛ける。
「カブオ、お前は凄いな。十年近くも部屋に閉じこもるなんて、なかなか出来ることじゃないぞ。それは、お前の才能だ。みんな違って、みんな良い。人はそれぞれの才能を伸ばすべきだな。頑張れよ!」
はて? 何かが違う。応援してどうする。
困った父は、すぐ後ろにいる母に、救いを求める視線を送った。
母は小さく肩をすくめ、父に代わってカブオに声を掛けることにした。
「カブオちゃん、お母さんよ。いつもご飯を綺麗に食べてくれて、ありがとう」
けれども、やはり返事はない。
更に言葉を繋ぐ。
「カブオちゃん、食べたら出さないと駄目よ。あなたずっと部屋にいるけど、トイレはどうしているの? お母さん、それがとても心配だわ」
待て待て待て。父は咄嗟に母を止めた。そんなことは問題ではない。いや、問題ではあるが、それを理由にカブオが部屋から出てくるとは思えない。
どうしたものかと頭を抱えた時、カブオの妹が、次はわたし、と声をあげた。
妹がカブオに声を掛ける。