小説

『YUKI-ONNA』 植木天洋(『雪女』)

 ごうごうというすさまじい音が鳴り響いていた。
 壁の厚い倉庫内にいても、その音がはっきりとわかった。
 ――近年、稀にみる大雪が降るでしょう――
 今朝のニュースでもしきりに警報が出ていたが、結局仕事が休めるわけもなく、しかも運悪く一人っきりでの残業になってしまった。
 雪はすでに大雪から猛吹雪に変化してしまったようだ。風が窓をガタガタと揺らし、ちょっとした隙間からビュウビュウと入ってきては悲惨な音を出している。
「まいったな……」
 商品ウィンドウから外を見ながら、ぞっとした。視界は真っ白で、ほとんど何も見えない。ウィンドウの方から冷凍庫をあけ放しにしたような冷気が漂ってくる。
 ぶるっと身を震わせてから、仕事の続きにかかった。
 仕事といっても商品の在庫管理表を仕上げるもので、本当ならとっくに終わっていて、大雪に降られる前に帰ることができたはずだった。
 しかし一緒に仕事を割り振られた女子社員が貧血を訴えて青白い顔で早退を願い出たので、無理はさせられないと思い早く帰した。
 それが、この有様だ。
 次々に「電車が止まる前に帰ろうぜ」なんていいながら他の社員が帰る中、延々と一人で在庫を数えていた。ようやく終わりそうな目処がついたものの、安全に帰れそうなタイミングはしっかりと逃してしまっていた。
 この猛吹雪の中に出て行くのは自殺行為だ。幸い倉庫内はほどほどに暖房が効いていて、ここにいれば困ることはない。いっそここに泊まっていこうか、とも考えた。
 だが、もし雪で停電になったりなんかしたら本当に最悪だ。暖房はとまるし、照明だって消えてしまう。真っ暗な中、一晩閉じこめられてしまう。大体毛布さえ見当たらないのだ。できればせめて布団のあるところに行きたい。
 スマホのラジオアプリを起動させて、天気の情報に耳をすませる。電車の運行停止情報が、次々に流れだしてくる。地下鉄以外、ほとんどすべての電車が止まってしまったのではないだろうか。
 ラジオを聞いていると、一時的に吹雪がおさまる時間帯ができそうだということだった。
 ほとんど完成間近の在庫管理表と、時計とを見比べる。なんとか間に合いそうだ。残りを急いでチェックしよう。そう思ってボールペンを走らせた。

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