小説

『猫と、僕と杏子の距離』こさかゆうき(『猫と庄造と二人のをんな』)

 杏子のケータイをのぞきこむと、青が基調の見慣れたページの画面に、子猫の写真が表示されていた。そこにはたしかに4 匹の子猫がいた。2 匹はビー玉のようにクリっとした瞳でこちらを見ており、残りの2 匹はそれぞれあらぬほうを向いていた。
「うーむ、猫かあ」
「なあ、ええやろ?」
「うーむ」
「猫は犬よりも世話がラクやって、柚葉も書いてるし」
「世話がラクなのはいいんだけど」
「じゃあ逆に聞くけど、なにがあかんの?」
「逆にって。僕は何も聞いてないよ」
「うわっ。でたぁ~屁理屈!」
「いやだって、猫って死ぬでしょ」
 杏子の挑発を華麗にスルーして、僕は本質を突いた(と思っていた)。
 すると杏子は、「は?」という顔をしてfacebook のページを閉じた。
「え、じゃあ聞くけど。人間は死なないんですか?」
(杏子は怒ると標準語になる)
「いいえ、死にます」
「でしょ?ほんなら猫だってそりゃ、いつか死にますよね?」
「うん。でも僕らより早く、ずっと早く死ぬでしょ」
「そりゃ、寿命がちゃうもん」
「うん。だから、それがイヤ」
「あのさ。仮にやで。あたしと健二が結婚して、な?」
「うん」
「あたしが先に死ぬかもしれないやん」
「うん」
「その可能性があるかぎり、健二はあたしと結婚しないわけ?」
「うん?」
「自分より先に死ぬ生き物とは、よう暮らせへんのやろ?」
「うーん。人と猫は、ちがうでしょ」

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