小説

『ミサキ・マサキ』和織(『ウィリアム・ウィルスン』『不思議の国のアリス』)

ツギクルバナー

「そうそう、岬、覚えてるだろ?岬真咲。あいつさ、入院してるらしいよ」
 トミーが言った。今日は高校の同窓会があって、先ほどまでホテルにいたのだが、解散後、仲の良かった四人のグループで居酒屋に入ることにした。僕と、富田と内山と今野、トミーとウッチーと今ちゃん。残念ながら、全員男で、全員ビールだ。何の色気もない。特に期待していた訳でもないけれど、同窓会ロマンス的なことは起こらなかった。高校を卒業して、五年が経っても全然変わらなかった奴もいれば、五年が経って誰だかわからなくなっている奴もいた。そういう話をしている中で、突然彼の話題になった。僕としては、今日の同窓会にその岬真咲という人物が来ていなかったことに、内心ほっとしていた。
「え、事故とか?どっか悪いの?」
 今ちゃんがそう訊くと、トミーは瞬きをしてから、指で自分のこめかみをトントンと叩いた。そして「もしくは」と言葉を挟んで、今度は胸のあたりを同じように叩いた。
「そういう専門のとこに入ったって。なんか傷害事件起こしたり、いろいろあったらしいよ。俺もそんな詳しくは聞かなかったけどね。別に知りたくもなかったし」
 それを聞いて僕は、とうとうそうなってしまったか、と思った。別に悲しくもない。残念でもない。考えてやる必要などない。ただ、小さなため息が出た。岬真咲と僕は、その程度の関係だった。いや、そもそも関係など、初めからなかったのだ。
 僕と岬真咲は、同じ小学校に通っていたことがある。けれど、ここにいるみんなはそれを知らない。隠している、まではいかないけれど、未だに言わずにいる。アリスが不思議の国の話をひけらかしたって、現実の世界では誰もそれを信じない。だから現実では、それは「夢だった」というのが本当なのだ。だから僕も、その本当を信じる。いくらあの、出てきたいときだけ出てきて、言いたいことだけ言って消える、身勝手なチシャ猫のことが脳裏に焼き付いていても、夢であれば、それは現実(ここ)にはいない筈だからだ。
「ちょっとヤバかったもんな、あいつ。一緒にいたの、みんな友達っていうか、舎弟みたいだったし。なんか、厄介な奴って感じした」
 ウッチーがため息交じりにそう言った。厄介な奴。まさにそれは岬真咲の為にあるような言葉だった。彼はそうやって始まって、そうやって終わって行くのだろう。初めて岬真咲に会ったとき、きっと僕は既に、そう予感していたのだ。
 彼が僕の通っていた小学校へ転入してきたのは、五年生のときだった。なんでも、前にいた学校にものすごく嫌いな奴がいて、それが理由で転校することにしたのだという。そんなことで学校を変えたいと言う彼にも、それが可能な家庭環境にも、僕は子供ながらに驚かされた、というか、呆れてしまった。

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