小説

『浅草アリス』植木天洋(『不思議の国のアリス』)

「アリス、アリスったら」
 聞き慣れた声で呼ばれて、アリスははっと目を覚ました。いつの間にか太った猫がアリスの上に乗っかっていた。人力車のドライバーが微笑ましそうにアリスを見ている。シャーロットが猫を優しく払いのけた。
「全く、どこから来たのかしらこの猫は」
「うさにゃん?」
 猫はアリスからプイッと降りると、ニャーっと鳴いてどこかへ去ってしまった。
「こんなにぐっすり寝ちゃって。夜更かしをするせいよ」
「あれ? 花魁は? うさにゃんが助けてくれたの?」
「なに言ってるのよ。ほら、ママたちが待ってるわ、いくわよ」
 アリスはシャーロットに手をひかれて、人力車からおりた。どこからともなく、きっしししという笑い声がした。

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