昔むかし。
山のふもとの小さな村に、おじいさんとおばあさんが仲良く暮らしていました。おじいさんは毎日山に入り、山の木を切って炭を焼きました。できあがると俵に詰めて、近くの町ヘ売りに行きました。でもおじいさんも、寄る年波には勝てませんでした。
「ああ、腰は曲がるし、足は痛いし、炭焼きもえらくなったナ。」
ある日のことです。お爺さんは焼き上がっていた炭を炭俵に詰め、炭俵をかついで、ヨタヨタ、山を下り始めました。
その日はとても暑かったので、さして降りないうちに、お爺さんは喉がカラカラになりました。たまらなくなって、あちこち水を探していると、とある水草に埋まった沢の、岩の隙間から、きれいな水がちょろちょろと流れ出ていました。
「こいつは、ありがたい」
お爺さんは、その冷たい水に口をあてがい、とても美味しく飲みました。なんだかからだがもぞもぞして、腰がしゃんとしたような気がしました。
「ああ、うまかった。生き返ったようだ。」
水のおかげで元気が出たのだと思い、お爺さんは深く考えもせず、また炭俵を担ぐと、山を下りて家へ帰ってきました。炭売りは一日仕事なので、明日、町へ出かけるのです。
「お婆さんや、今戻りましたよ。」
「あらまあ、早かったですね。おじい・・・・・・」
手をふきふき出てきたお婆さんは、ものも言えなくなって、その場に立ちすくみました。言葉つきはお爺さんのようでもありましたが、そこには見知らぬ若者が立っていました。
「これはこれは、どちらさまで。」
「なにを言ってるのだ、お婆さん、わしだよ、わし。」
「へえ、わしと言われても、あなたはうちの人ではなく、この辺ではお見かけしません、お若い方ですが。」
「若い!?」