小説

『オリザに灯る火』清水その字(宮沢賢治『グスコーブドリの伝記』)

 さそりは井戸の水で溺れながら、神様へ祈った。私の心をごらんください。こんなに虚しく命を捨てずに、どうかみんなの幸いのために、この体をお使いください……と。そして、さそりは自分の体が真っ赤な火になって、闇夜を照らしているのを見たという。
「その火は今でも、ずっと燃えているんだよ」
 先輩は窓の外、一面に広がる沼畑に目をやった。夕日が青いオリザの苗に照り、水面を輝かせている。まるで火がついているかのようだった。この火はグスコーブドリが灯したのだろう。そしてきっと、いつまでも燃え続けるのだ。
 私はこの火を見たグスコーブドリの、幸せそうな笑顔を見た気がした。

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