小説

『幸福の青いカラス』エルディ(『青い鳥』)

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 わたしは振り返りません。
といっても、過ぎたことは振り返らないという意味ではありません。そうなれたらどんなに素晴らしいでしょう。
 むしろ、わたしはくよくよと思い悩む女の子です。後悔してばかり。そんな自分を早く卒業したいです。中学生になれば卒業できるでしょうか。

 わたしは振り返りません。
 後ろを振り返ることができないのです。後ろといっても、過去ではありません。こうして教室で席についているときに、文字通り背後を振り返ることができないのです。先生に怒られるからだけではありません。休み時間だってそうなのです。

 後ろの席に嫌いな人がいるからではありません。教室にだれもいなくてもそうなのです。だからもちろん、後ろの席に好きな男の子がいて恥ずかしいからでもありません。これはほんとにほんとにナイショですけど、好きな人は左隣りの席にいますから。おかげでいつもからだの左側が緊張しています。この間自分で左肩をとんとんとマッサージしていたら、お母さんに笑われてしまいました。
「小学生のくせに肩がこるなんて」
お母さんにもわたしが隣の席の吉田くんのことが好きだとは言っていませんので、反論はしません。それに、肩こりはドキドキのせい、なんて理くつお母さんはわかってくれそうにありません。

 話がそれてしまいましたが、わたしは訳あって、振り返ることができません。
 後ろを、教室の後ろの掲示板を、見ることができないのです。教室に入るときも出るときも、後ろの掲示板に背を向けてカニ歩きのようにするか、下を向いて通ります。そのくらい嫌なのです。

 何があるかと言いますと、青い鳥です。三十六羽の青い鳥です。でも嫌なのは青い鳥ではありません。三十六羽の中に青い鳥になりそこねたのがいるからなのです。

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